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 「きさげ加工」をご存じだろうか。先端に刃物を備えた棒状の工具(スクレーパーやきさげとも呼ばれる)を使って手作業で表面を高精度に仕上げる加工法である。高い精度の平面度、具体的には1m2あたりの凹凸が10μmを下回るような精度を実現でき、半導体製造装置や工作機械の摺(しゅう)動面など、高い精度が必要な部品の製造で使われる。

 藤田勝商店(千葉市)と藤田製作所(千葉県茂原市)で構成される藤田グループは創業100年を2020年に迎えた老舗企業。製造を担う藤田製作所は、このきさげ加工を中心とした高精度加工を強みにしており、検査などで平面の基準として使う定盤の製造を中心に、半導体製造装置や工作機械などさまざまな装置向けの高精度加工も受託する。従業員は110人と規模は決して大きくないが、納品先には自動車メーカーや工作機械メーカーなど大手メーカーが名を連ねる。多くの製造業が新型コロナウイルス感染症の影響で苦戦を強いられる中、同社はフル操業を続けるほど好調だ。きさげ加工がなぜここまで必要とされるか、具体的にはどのような作業工程なのか。

図 きさげ加工の様子
図 きさげ加工の様子
(写真:日経クロステック)
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クランプと熱変形による影響を極力排除

 そもそも、きさげ加工*1は工作機械などによる機械加工とどこが違うのだろうか。昨今の工作機械は高精度加工を競っており、手作業を超える精度の実現も一見簡単に思える。違いは大きく2つある。まず、ワーク(加工対象)を固定するクランプによる締め付け力や、切削時に工具を押し付ける力などによるワーク変形がないこと。もう1つは、環境や加工熱による温度の変化で生じる変形を最小限にできることだ。これらは工作機械による機械加工ではいずれも避けられない。

*1 摺(しゅう)動面で油だまりを形成することだけを目的にした加工もきさげ加工と呼ぶ場合があるが、本記事では平面度を高める目的のきさげ加工で話を進める。

 もちろん工作機械による加工でも、環境温度を一定にしたり、AI(人工知能)などまで使って応力や熱による変形の影響を極小化したりする工夫は進んでいる。しかし、きさげ加工はそもそもこうした影響をほとんど生じない手法だからこそ機械加工では現状不可能な精度を実現できる。具体的な方法は後述するが、ワークを無理に固定せず自然に置いた状態で、ワークの温度が上昇しないように少しずつ表面を仕上げていく。

図 きさげ加工のさまざまな模様
図 きさげ加工のさまざまな模様
定盤や構造材の合わせ面などでは「突き止め」や「突き跳ね」が主流。「壺(つぼ)」は摺(しゅう)動面で使われることが多いという。(写真:日経クロステック)
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