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 茨城県境町は国内初となる公道での自動運転バスの定期運行を始めた。意欲的な取り組みではあるが多くの課題も残っている。境町の事例を通じて、自動運転バス実用化の現在地を探る。

出発式で記念撮影する茨城県境町の橋本正裕町長(前方中央)
出発式で記念撮影する茨城県境町の橋本正裕町長(前方中央)
(撮影:日経クロステック)
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自動運転バスが渋滞をつくる

 人口2万4000人の境町にとって公共交通機関の充実が悲願だった。東京まで50~60キロメートル圏に位置するが、鉄道駅がなかったからだ。

 そこで橋本正裕町長が2019年12月にソフトバンク子会社の自動運転ベンチャーBOLDLY(ボードリー、旧社名SBドライブ)に相談した。2020年1月の町議会で5年分約5億2000万円の予算を全会一致で可決。境町はフランスNavya(ナビヤ)製の電動自動運転バス「ARMA(アルマ)」を3台導入した。

 各種整備を終え、2020年11月26日から定期運行を始めた。第1弾は町内の「シンパシーホール」から千葉県野田市との境界に近い「河岸の駅さかい」までの片道2.5キロメートルについて、1日4往復を運行する。運賃は無料だ。

 現状は無人運転ではなく、必要に応じて運転操作に介入する運転手と、運転の補助や高齢者の介助などを担う保安要員が乗務する。運転手は、普通運転免許とNavyaの認定資格を持つBOLDLYの社員が担当する。

BOLDLYの佐治友基社長。運転資格を持っており、自らコントローラーを持って運転手役を担当
BOLDLYの佐治友基社長。運転資格を持っており、自らコントローラーを持って運転手役を担当
(撮影:日経クロステック)
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 運転手が発車ボタンを押すだけで、後はARMAが道や前方の車両の様子などをセンサーで検知しながら自走する。車内は静かで、加減速も極めてスムーズ。試乗した際の乗り心地も快適だった。車道にクルマは通るものの、人通りは少なく、人とぶつかりそうな危険な場面を見ることもなかった。

 しかしながら、2つの課題が見えた。まず速度だ。境町ではARMAの最高速度を時速18キロメートルと、安全を考慮して仕様上の最高速度である時速25キロメートルよりも抑えている。

 ARMAが走るのは境町の中心市街地の「旧道」と呼ばれる片側1車線の通りだ。路面店が立ち並ぶ東側の「新道」より交通量は少なく、その分技術的なハードルが低いという観点でコースに選んだという。

 それでも、旧道にも郵便局や病院、食品スーパーなど生活密着型の施設がある。町役場も近く、クルマの交通量は少なくない。道路の制限速度は時速30キロメートルなので、一般車は18キロで走るARMAにすぐに追いついてしまう。

一般車と速度差があるため、自動運転バスを先頭に渋滞することがある
一般車と速度差があるため、自動運転バスを先頭に渋滞することがある
(撮影:日経クロステック)
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 実際に何度かARMAを先頭にクルマ4~5台の渋滞ができてしまっていた。運転手は渋滞に気付いたらARMAを路肩に止めて、後ろのクルマに道を譲る。道を譲ってから戻る操作は自動ではできず、手動操作である。