ホンダがバイクのEV(電気自動車)化で攻勢をかけている。2020年12月11日、前1輪・後ろ2輪の商用3輪EVバイクを開発し、21年春以降に2車種を市場投入すると発表した(図1、2)。自社で手掛ける交換式のリチウムイオン電池「Honda Mobile Power Pack(モバイルパワーパック)」を適用。家電向け充電池のように電池パックを入れ替える仕組みで、EVバイクの弱点ともいえる充電の待ち時間を大幅に減らす。慣れれば10秒以内で交換できる。稼働停止を最小限に抑え、導入事業者の収益向上に貢献する。世界的な環境意識の高まりもホンダの背中を押す。
ホンダが開発したのは、屋根なしの「GYRO e:(ジャイロ イー)」と屋根付きの「GYRO CANOPY e:(ジャイロ キャノピー イー)」。前者は21年春に、後者は同年夏に市販を予定する。それぞれ、デリバリー事業者などに人気があるガソリン3輪車「GYRO X(ジャイロ X)」「GYRO CANOPY(ジャイロ キャノピー)」の電動仕様という位置づけだ。
EVバイクの選択肢を増やして顧客の利用状況に合わせた提案を可能にする。20年4月に販売を始めた商用2輪EVバイク「BENLY e:(ベンリィ イー)」シリーズと合わせて、「Honda e: ビジネスバイク」と銘打って展開していく。
新型の2車種はベンリィ イーをベースに開発した。車両前部の機構や外板は生かしつつ、後輪部を2輪に変更。完全な新規開発に比べて工数を抑えて実現した。航続距離など走行性能は未公開。
ホンダのガソリン3輪車がこれまで支持を得てきたのは、後ろ2輪でありながら旋回性能に優れ、荷物を効率よく運べる特徴があってこそ。排気量50ccクラスの水冷単気筒4バルブエンジンを搭載して、車輪の回転差を調整するデファレンシャルギア(デフ)機構を介して動力を後輪に伝える。新型はモーター駆動のためデフ機構周辺は刷新したようだが、車体を左右に傾けつつ滑らかに旋回する技術は踏襲する。
EVバイクの競争軸となる駆動用の電池パックは、座席下部に計2個搭載する。インストルメントパネル(インパネ)で電池残量の低下を確認したら、配送拠点に戻るタイミングで充電済みの電池パックと手作業で入れ替える。電池の置き場所など条件にもよるが、手早くこなせば10秒以内で交換できる(図3)。仮に、停車後に電池パックの充電を始めると約4時間の待ち時間が必要なため、「交換して使うのが最も効率よい運用方法」(ホンダ)だという。
特に、商用利用は1台の車両の稼働率によって得られる利益が増減する。バイクはクルマに比べて電池パックの搭載空間が小さく、1充電当たりの航続距離を延ばしにくい。充電回数は多くなり、稼働停止の合計時間も長くなる。こうしたEVバイクの導入ハードルを下げられるのが電池交換式の強みといえる。
電池容量1kWh×2個
電池交換式の利点はまだある。例えば、電池パックを最新性能のものに乗せ換えられ、高密度・大容量化といった技術進歩の恩恵を受けやすいこと。電池内蔵のEVバイクの場合、整備工場に車両を預けた上で、専門スタッフの手で入れ替えなくてはならない。電池交換式なら、日常の利用の中で手軽に刷新できる。
さらに、1個の電池パックを多用途で使い回せるため、車両本体の価格を下げやすいことも利点だ。ホンダもかねて同電池パックを適用した小型4輪車の構想を披露したり、日常生活での電池パックの活用方法を提案したりしている。
電池パックの仕様は実用化の当初から変更していない。1個当たりの容量は約1kWhで、質量は約10kgだ。パナソニックから調達した円筒型のリチウムイオン電池セルで構成している。電池パックの寸法は、実測値でおよそ全長145×全幅170×全高300mmである。