全2565文字
PR

 年間200万円の投資で、得られる効果は150倍の3億円――。光半導体メーカーの京都セミコンダクター(以下、京セミ、京都市)が、工場のデジタル化で壮大な目標を掲げた。生産設備にセンサーを追加し、集めたデータを異常検知や生産性向上に活用する。現在は年間3週間程度の稼働停止期間(ダウンタイム)を4日に短縮できる見込みだ。

 旧式設備をIoT(Internet of Things)化する、いわゆる「レトロフィットIoT」を進める。同社はこの取り組みを「スマートFAB」と呼ぶ。既に一部の工程で始めており、本格展開するめどが付いた。今後5年で年間約200万円を投じ、累計で15億円(年平均で3億円)の効果を見込む。同社の20年3月期通期の売上高は31億9000万円だったので、3億円は売上高の約1割に相当する。

レトロフィットIoTを進める京都セミコンダクターの恵庭事業所(出所:京都セミコンダクター)
レトロフィットIoTを進める京都セミコンダクターの恵庭事業所(出所:京都セミコンダクター)
[画像のクリックで拡大表示]

 15億円の内訳は、旧式設備の延命による設備投資抑制効果が10億円、実生産能力の向上による増収効果が5億円である。「設備投資抑制で浮いた資金は、成長分野に回す」(京セミ代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)の高橋恒雄氏)。さらに、現在は生産能力の制約から販売機会を逃している需要があり、実生産能力が上がればそうした需要を取り込んで売り上げを増やせるという。

 データの収集・分析基盤となるIoTプラットフォームや、データを現場のセンサーからIoTプラットフォームに吸い上げるためのゲートウエー機器は、ドイツSiemens(シーメンス)の製品を採用した。前者はクラウドベースの「MindSphere(マインドスフィア)」、後者は「MindConnect Nano(マインドコネクト・ナノ)」を使う。年間約200万円の投資額には、前者の利用料や後者の購入費用も含まれる。「かつてドイツでシーメンスの工場を見学した際、広大な工場にある全ての設備がネットワークにつながっているのを目の当たりにしていたので、『これだ』と採用を決めた」(京セミの高橋氏)。

 IoTプラットフォームやゲートウエー機器を日本で普及させたいシーメンスも、京セミに期待を寄せる。「京セミの取り組みは日本の中でもベストプラクティス。大企業の採用事例は増えてきたが、中堅・中小企業でも使えることを訴求していく」(シーメンス日本法人のMindSphere/Mendixエコシステム開発責任者を務める松本洋一氏)。

25年以上稼働している装置をIoT化

 京セミがIoT化の対象として最初に選んだのは、成膜工程のプラズマCVD(化学蒸着)装置である。同装置は、薄膜構成原子を含む化合物ガスをプラズマによって解離・イオン化し、基板(ウエハー)に吹き付け、基板表面上での化学反応を利用して絶縁薄膜を形成する。半導体製造の主に前工程を手掛ける同社恵庭事業所(北海道恵庭市)において、25年以上にわたりほぼ毎日稼働している装置をIoT化した。

プラズマCVD装置(出所:京都セミコンダクター)
プラズマCVD装置(出所:京都セミコンダクター)
[画像のクリックで拡大表示]

 生産性向上や異常検知のために必要なデータは、「装置内ガス流量」「装置内圧力(真空度)」「高周波電源出力」「ポンプ負荷」「供給ガス圧力」「供給ガス残量」などである。

 例えば、高周波電源出力には順方向成分(定常波)と逆方向成分(反射波)があり、両者を調整した上で装置に印加している。経年劣化で出力のばらつきが大きくなると、狙い通りの膜を形成できなくなり、歩留まりが悪化する。出力がリアルタイムで把握できると、旧式装置でも歩留まりを高水準に保てるので、減価償却期間を超えて長く使えるという。

 従来、これらのデータは、そもそも計測していない、または計測していてもリアルタイムで活用できない状況だった。リアルタイムで活用できないのは、アナログ計測器の表示を人が目視で書き取っていたり、データをフロッピーディスクに保存していたりしたからだ。

 従って、故障などの異常を事前に予測できなかった。プラズマCVD装置が故障した場合、高価なカスタム部品を交換しなければならない。高価なのであらかじめ部品を潤沢に用意しておくのも難しく、どうしても実際に故障してから部品を手配することになる。そのため、稼働再開までに時間がかかっていた。