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 ソニーが、自動運転の中核となるLiDAR(Light Detection and Ranging)部品の開発に参入する。半導体素子の学会で、近赤外レーザー光の受光素子について発表した。イメージセンサーに加えてLiDAR部品を手掛けることで、自動車事業でさらに攻勢をかける。自社で開発中の自動運転車の性能向上にも一役買いそうだ。

試作したSPADの断面図
試作したSPADの断面図
(出所:ソニー各社の研究グループとIEDM)
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 ソニーセミコンダクタソリューションズとソニーセミコンダクタマニュファクチャリングが、受光素子となるSPAD(Single Photon Avalanche Diode:単一光子アバランシェダイオード)を試作した成果について、2020年12月12~18日に開催された「66th International Electron Devices Meeting(IEDM 2020)」で発表した。

 スマートフォン向けの3次元(3D)センサーや自動車用の長距離LiDARでは、ToF(Time of Flight)方式で測距するのが一般的である。近赤外のレーザー光を照射し、対象物で反射して戻ってくるまでの時間を算出して、距離を測る。ToF方式は、測定方法によって間接方式(インダイレクトToF、iToF)と直接方式(ダイレクトToF、dToF)の2つに大別できる。このうち自動車向け長距離LiDARで多用されるのが直接ToFである。ソニーは直接ToF向けの受光素子として高感度なSPADを試作した。SPADを2次元にアレー状に配列して距離画像を取得する。

 SPADは、APD(Avalanche Photodiode)を「ガイガーモード」で動作させて、入射してきたフォトン(光子)の数を数える、いわゆるフォトンカウンターとして使われる。入射した1つの光子から大量の電子と正孔のペアを雪崩のように大量に生じさせる「アバランシェ(雪崩)現象」を利用して受光感度を高めており、長距離測距に向く。

SPADとアバランシェ現象の説明
SPADとアバランシェ現象の説明
(出所:ソニー各社の研究グループとIEDM)
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 SPADのコストを大きく左右する材料として、一般的なイメージセンサーと同じく、安価にしやすいSi(シリコン)を採用した。Siの光の吸収係数は近赤外域で低く、感度を高めにくい。ソニーは、SPADの構造などに工夫することで効率を高めた。940nmの近赤外光に対して、SPADの効率の指標となる「PDE(Photon Detection Efficiency)」を14.2%まで高められた。従来のSPADに比べて3~4倍ほど大きい。なお長距離用途を狙うと1550nm帯といった短波長赤外を使う他社品があるが、化合物半導体が必要で高価になる。

PDEの測定結果
PDEの測定結果
(出所:ソニー各社の研究グループとIEDM)
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 PDEを高めようとするとタイミングジッターが大きくなり、測距精度が下がる。逆にタイミングジッターを小さくすると、PDEを高めにくいトレードオフになる課題がある。ソニーは大きく4つの工夫を凝らしたことでトレードオフを緩和した。高いPDEを実現しつつ、タイミングジッターの半値幅(FWHM)を173ps(ピコ秒)にとどめた。なお、PDEはアバランシェ現象が発生する効率を含むので、単なる量子効率に比べて低くなる。

タイミングジッターの測定結果
タイミングジッターの測定結果
(出所:ソニー各社の研究グループとIEDM)
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