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 日本製鉄は、AI(人工知能)による設備の状態監視や異常予兆検出に本格的に取り組む。設備の老朽化で未知の不具合が増加しており、しきい値管理などの従来型手法では事故を防ぎきれなくなってきた。未知の不具合にも強いAIの採用で、事故の未然防止に挑む。

日本製鉄君津地区の熱延工場(出所:同社)
日本製鉄君津地区の熱延工場(出所:同社)
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2日前に予兆を検出

 「熟練者も経験したことのないような不具合が増えている」。老朽化する製鉄所の課題について、日本製鉄デジタル改革推進部部長兼総務部上席主幹の星野毅夫氏はこう説明する。従来は、熟練者が設備の稼働状況や過去の経験に基づいて予兆を捉え、未然に防いでいた。不具合が発生しても、比較的短時間で原因を特定できていた。ところが、最近は予兆検出や原因特定が難しくなっているという。

 従来は主にしきい値管理で設備の状態を監視していたが、その限界も見えてきた。複雑なシステムでは、幾つかのパラメーターがしきい値を超えても全体としては正常に稼働していることもあるし、逆にしきい値を超えていなくても全体としては異常ということもある。それでも従来は熟練者の判断で安全と生産効率を両立させてきたが、設備の老朽化で苦戦を強いられるようになってきた。例えば、あるパラメーターがしきい値を超えた場合、それが単なる経時変化として無視して構わないものなのか、それとも不具合の予兆なのか、熟練者でも判断が付きにくいのだ。

 設備の老朽化によって、熟練者の知見に頼るだけでは状態監視や異常予兆検出が難しくなったことから、それを補う手段として日本製鉄はAIの活用に踏み切った。採用したのは、NECのAIソフト「インバリアント分析」である。同ソフトは、過去の正常データを学習し、正常モデル(正常の定義)を自動で作成する。正常モデルから逸脱した状態は全て異常と判定する。これによって、未知の不具合にも対応する。異常データを学習する方式のAIソフトも検討したが、この方式だと学習させた既知の不具合には強くても未知の不具合に弱い。この違いがインバリアント分析を採用する決め手となった。

 検討段階で星野氏ら日本製鉄のメンバーを驚かせたのは、インバリアント分析がかつて実際に発生した不具合の予兆を捉えたことだった。同社が過去の正常データを学習させた上で不具合発生前後のデータを入力すると、約2日前の時点で予兆を検出したという。