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 ルネサスエレクトロニクスは同社の車載SoC(System on Chip)として最高性能となる「R-Car V3U」の詳細や、今後の車載SoC戦略について説明した。同社車載デジタルマーケティング統括部シニアダイレクターの伊賀直人氏に話を聞いた。

ルネサスエレクトロニクスの伊賀直人氏
ルネサスエレクトロニクスの伊賀直人氏
(出所:ルネサスエレクトロニクス)
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 R-Car V3Uは、人工知能(AI)による認識に加え、各種センサー情報の統合(センサーフュージョン)から判断まで、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転の主要な処理を1チップで実現できる。AIの推論処理用に最大60TOPS(毎秒60兆回)の性能を持つ専用回路を搭載するほか、英Arm(アーム)のCPU「Cortex-A76」を8コア集積する。

 ADASや自動運転では、AIの推論処理が注目されているものの、「CPUを多用するプログラム形態も多く、高性能CPUは欠かせない」(同氏)という。また、通信系などのリアルタイム処理用にアームの「Cortex-R52」も搭載する。これによって外付けのマイコンを不要にできる可能性がある。1チップで機能安全規格「ISO 26262」の「ASIL-D」を達成できる見通しであり、システムを大幅に簡素化できるという。

 ただ、60TOPSというAIの推論性能は、競合他社の車載SoCに比べて必ずしも高いとはいえない。イスラエルMobileye(モービルアイ)の車載SoC「EyeQ6」は、V3Uとほぼ同時期の2023年の量産を目指しているが、AIの推論性能は128TOPSと高めである。また、米NVIDIA(エヌビディア)がドイツDaimler(ダイムラー)向けに24年にも量産する車載SoC「Orin」は、1チップで200TOPSを実現する。

 この点について伊賀氏は、「現時点でボリューム(量産規模)を見込めるADAS/自動運転向けの車載SoCを考えると、コストや消費電力のバランスから60TOPSが最適と判断した」と説明した。「1チップで200TOPSといった性能を実現することは技術的には可能だが、コストや消費電力が高くなりすぎる」(同氏)。また、そのようなチップが求められる用途は、ごく一部の高級車などに限られ、量産規模はさほど大きくないとする。

 60TOPSを超える要求に対しては、2チップまたは3チップといった複数チップでの利用を提案する。「複数チップを使っても、同じ性能の1チップ品に比べて、コスト的には大差ない」(同氏)とみる。

R-Car V3Uのチップ(左)と評価ボード(中央)
R-Car V3Uのチップ(左)と評価ボード(中央)
評価ボードは、最小構成のスターターキットに、さまざまなインターフェースを備えた拡張ボードを接続できる構造である。(出所:ルネサスエレクトロニクス)
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13.8TOPS/Wを実現

 R-Car V3Uは低消費電力性に大きな特徴がある。60TOPSのAI推論を実現する専用回路「CNN-IP」は、チャンピオンデータではあるものの、最大13.8TOPS/Wの性能/電力比を実現している。従来の「R-Car V3H」に搭載していたCNN-IPは2~3TOPS/Wだったことから、大幅に改善したことになる。回路技術の詳細は「ISSCC 2021」で発表する。

 3×3のコンボリューション(畳み込み)に対応した専用回路を搭載したことなどが低消費電力化に寄与したという。これまでは5×5のコンボリューションに対応していたが、最新のニューラルネットワークは3×3を多用するようだ。その場合、5×5の回路では演算器の使用効率が低下してしまう。「V3Hのユーザーの声や、AIソフトベンダーの声などを参考に、最適な回路構成を取り入れた」(同氏)という。回路構成とうまく合致するニューラルネットワークの場合、AI推論時に非常に高い性能/電力比が得られる。

 このほか、V3Uではモデルベース設計向けにSoCの仮想モデルを提供する「アーリー・シリコン・プロトタイピング」と呼ぶ取り組みをしている点が注目できる。実チップができる前から、各種ソフトウエアの評価が可能となる。マイコンでは以前からあったが、SoCでは対応が遅れており、今回のV3Uから始めたという。「SoCは複雑なIPコアを多数集積するため、モデルの構築はなかなか大変だ」(同氏)という。

V3Uの回路ブロック
V3Uの回路ブロック
(出所:ルネサスエレクトロニクス)
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