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 「この設計おかしくないですか」「本当だ。これだとちゃんとSoC(System on a Chip)を冷やせないよね」――。2020年11月中旬。日経BPの会議室に集まったハードウエア技術者たちは、分解途中の米Microsoft(マイクロソフト)の「Xbox Series X」を片手に頭を悩ませていた。Xbox Series Xは、米Sony Interactive Entertainment(SIE、ソニー・インタラクティブエンタテインメント)の「PlayStation 5(PS5)」の対抗機として、マイクロソフトが市場に送り込んだ据え置き型ゲーム機だ。このXbox Series Xでは、SoCを冷却するヒートシンクに「ベーパーチャンバー」と呼ばれる放熱部品を利用する。技術者たちの目には、この配置が常識外で、冷却する役目を十分に果たさないのではないかと映ったのだ。

Xbox Series Xに搭載されたベーパーチャンバー
Xbox Series Xに搭載されたベーパーチャンバー
熱源に接する部分は銅板でできている。SIEのPS5などで用いられているヒートパイプと比べて非常に高価で、原価は25米ドル程度と推定される。(写真:スタジオキャスパー)
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 ベーパーチャンバーとは、熱拡散機構を備えた平板型のヒートパイプである。内部の作動液の蒸発や凝縮潜熱を利用し、効率的に熱を拡散させるため、一般的な棒状のヒートパイプよりも冷却性能が高いとされている。

 ベーパーチャンバーの構造は2枚の金属板を貼り合わせた形で内部が中空になっていて、純水などの作動液が封入されている。この作動液が熱源部分に当たり、蒸発して内部に拡散して温度を下げる。拡散して冷却後は凝縮して液体に戻り、内壁などに配置された、毛細管力を発生させる「ウィック」と呼ばれる構造体を通じて、毛細管現象によって熱源部分に作動液が戻っていく仕組みである。

ベーパーチャンバーの仕組み
ベーパーチャンバーの仕組み
(出所:大日本印刷の資料を日経クロステックが撮影)
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 この循環の仕組みでは、熱源に作動液を触れさせて蒸発させる必要があるため、熱源部分が下面にある「ボトムヒートモード」で使用するのが一般的だ。重力によって凝縮した液が、熱源部分に戻るようにするためだ。

 もし熱源がベーパーチャンバーの天面側にあるような向きの場合は、作動液が熱源ではない場所にたまって想定の冷却性能を発揮しにくくなってしまう。この状態を「トップヒートモード(逆作動)」と呼ぶ。つまり、ベーパーチャンバーを配置する向きによって冷却性能が大きく劣ってしまうのである。

トップヒートモードになっていたXbox Series X

 Xbox Series Xの分解で技術者が目を留めたのは、ゲーム機本体をメーカーが提示した向きで横置きすると、ちょうど冷却部である銅板が天面側を向きトップヒートモードになってしまうからだった。

横置きしたXbox Series X
横置きしたXbox Series X
(写真:スタジオキャスパー)
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Xbox Series X背面側の蓋を開けた内部の様子
Xbox Series X背面側の蓋を開けた内部の様子
写真手前の面が、横置きした際の天面に当たる。内部の主な部品配置は、写真奥がベーパーチャンバー、写真中央がメイン基板とメインフレーム、写真手前が電源ユニットである。(写真:加藤康)
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 「トップヒートモードになると、冷却できずSoCの温度が15℃程度上がってしまうこともある」(熱設計に詳しい技術者)。これでは、いくら高コストな放熱部品を用いても、無意味になってしまう。熱設計に詳しい技術者は「マイクロソフトは本当にこんな設計を許したのか」と疑問を口にした。

 そこで何か工夫がないか調べるため、まずは実際の冷却性能を簡易的に検証してみることにした。熱設計の専門家であるサーマルデザインラボ代表取締役の国峯尚樹氏に検証を依頼し、ベーパーチャンバー単体で向きを変えながら冷却性能を確かめてもらった。