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 2021年1月12日、楽天モバイルに勤務する人物がソフトバンクの技術情報を不正に持ち出したとして、警視庁に不正競争防止法違反の容疑で逮捕された。

 不正に持ち出された「技術情報」が具体的に何かについては限定的にしか分かっていない。だが、4G(第4世代移動通信システム)や5G(第5世代移動通信システム)ネットワーク用の基地局設備や、基地局同士または基地局と交換機をつなぐ固定通信網に関する技術情報であるようだ。

(出所:PIXTA)
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(出所:PIXTA)

多額の賠償請求の可能性

 5Gの基地局に関しては、どの通信キャリアも非常に苦労してきた。なぜなら、特に5Gで高速通信を実現する28GHz帯の無線通信は、4Gで主に利用されてきた800M~900MHz帯に比べて周波数が高くなるからだ。

 一般に高い周波数の電波は低いものに比べて飛ばせる距離が短く、1つの基地局から電波を飛ばせる角度も狭い(指向性が高い)。加えて、壁などの遮蔽物を通りにくく、周辺の建物の影響を受けやすいという特徴もある。そのため、電波の反射板を置いたり、電柱に巻くことが可能なアンテナを開発したりといった工夫を施している*1。さらに、高周波数の電波は水分に吸収されやすいため、アンテナへの撥水(はっすい)処理や着雪対策も実施している。

*1 ドコモ、電柱に巻ける5Gアンテナ AGCと試作https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55333830W0A200C2X30000/

 それでも5Gは4Gに比べて多くの基地局やアンテナを設置する必要があり、その費用や設置場所の確保は、通信キャリアの大きな悩みになっている。しかも、基地局が増えるほど基地局同士の通信量が多く複雑になるため、効率の良い通信基盤を構築しなければならない。

 つまり、5Gに対して各通信キャリアは非常に多額の投資を行っており、それによって得られたノウハウや技術情報が投資の“果実”なのである。従って、非常に価値が高い重要情報と言える。

 今回盗み出された情報がどれくらい機密性の高いものかは分からない。だが、ソフトバンクが直ちに提訴に動いたことに、同社の強い危機感が表れている。今後、同社が裁判において多額の賠償を請求する可能性は高い(注:情報を盗んだ個人に対して損害賠償を検討していると報じられている)。

対岸の火事にあらず

 楽天モバイルは通信キャリアとしては後発で、他の3社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)から転職してきた人材が多い。そのため、残念ながら今回のような事態が発生するリスクがゼロとは言えない。恐らく、最低限のコンプライアンス(法令順守)教育は行っていたと思うが、結果的にそれだけでは今回の事件を防ぐことはできなかったというわけだ。

 仮に、今回の事件が組織的なものではなく個人的な犯罪だとすると、企業としては完全に防ぐことは難しいかもしれない。それでも、こうした事態が起こった以上、技術情報に関するコンプライアンスのあり方については、社会から厳しく問われることになるだろう。

 これは楽天モバイルに限った話ではない。機密情報が多い業界や企業は、細心の注意を払わなければならない。

 筆者は、今回の事件を生んだ要因の1つに、リモートワーク化が進んでいる社会的背景があると考えている。リモートワークで在宅勤務などが進めば、周りの目がない分、心理的に不正な行為に手を染めやすくなる。従って、リモートワークによる不正をどのように監視して防いでいくかが、今後の企業にとって大きな課題になるだろう。