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 「鋳造製のポットスチル(単式蒸留器)は世界初」——。若鶴酒造(富山県砺波市)取締役の稲垣貴彦氏はこう胸を張る。ウイスキーの生産を手掛ける同社は、老子(おいご)製作所(同高岡市)と共同で砂型鋳造法によるポットスチルの製造に挑戦。地元の伝統産業である「高岡銅器」の仏像や梵鐘(ぼんしょう)の製造技術を生かして青銅(銅すず合金)製ポットスチル「ZEMON」(ゼモン)を開発した。

鋳造で造った青銅製ポットスチル「ZEMON」
鋳造で造った青銅製ポットスチル「ZEMON」
中央に立っているのは若鶴酒造の稲垣貴彦氏(中央左)と老子製作所代表取締役社長の老子祥平氏(同右)(撮影:日経クロステック)
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 ZEMONは、ポット下部、同上部、ヘッド、エルボ、ライアームの5つの鋳造部品から成る。胴部の直径は1.8m、高さはポット部で2.7m、ヘッドやエルボまでを含む全高は4.3mになる。銅(Cu)約90%、すず(Sn)約8%の青銅製で、容量は3000L。海外進出を意識してRoHS2指令に対応できる鉛(Pb)フリーの地金を使っている。ウイスキー蒸留で使うポットスチルは従来、板金加工で一品一様に造るしかなかった。鋳造で造るZEMONはその常識を打ち破る量産性の高いポットスチルだ。

ZEMONの全体像
ZEMONの全体像
全高は4.3mになる(撮影:日経クロステック)
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ZEMONの構成
ZEMONの構成
5つの鋳造部品から成る。鋳造で形状再現性が高いため、エルボの曲げ角、ヘッドやライアームの長さなど一部だけをカスタマイズして組み合わせることもできる(出所:若鶴酒造)
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仏像や梵鐘製造の技術でポットスチルを

 近年、日本のウイスキーが世界的にも高い評価を受けるようになり、国内にも多数のクラフトウイスキーが登場。ウイスキー蒸留所の数も急増している。稲垣氏によると、その数はここ5年ほどで3倍にもなっているという。

 若鶴酒造は老舗の日本酒醸造所だが、実は北陸唯一のウイスキー蒸留所として半世紀以上も前の1952年からモルトウイスキーを生産している。ジャパニーズウイスキーへの注目度が高まる中、稲垣氏は本社に隣接する同社のウイスキー蒸留所「三郎丸蒸留所」の改装に取り組むなど、ウイスキー生産を強化してきた。その一環として考えたのが、大型ポットスチル導入による生産量アップだった。

 ところが、銅製のポットスチル製造を手掛ける国内メーカーは1社しかなく、納期も8カ月と長い。海外メーカーに至っては、世界中からの注文があり2、3年待ちは当たり前という。そこで同氏が目を付けたのが地場の伝統産業である高岡銅器の技術だった。

 一般に純銅の鋳造は難しいとされる。ましてポットスチルのような大型容器を鋳込んだという話は聞いたことがない。だが、Cuを主成分とする青銅なら、大型の梵鐘の要領で鋳込めるではないか——。稲垣氏は、こう考えた。