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 モーターや橋脚などの建築物、あるいは腕の動きなどの身近にある振動のエネルギーを電力に変換する「振動発電」技術の発電出力が大きく向上してきた。コンプレッサーなどのモーターが生み出す振動を想定した場合、10年前は面積1cm2当たりで約10µWだった発電出力が、MEMSプロセスを利用した最新の振動発電素子では同数十µ~約200µWと数~20倍に高まってきたのである(図1)。

MEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)=半導体の製造プロセスを応用して作成する、機械的駆動部分を備えた微細素子またはその製造プロセス。マイクや圧力センサー、通信用スイッチ、ジャイロセンサー、温度センサー、加速度センサーなどがある。
図1 振動発電素子の出力が10年前の20倍に
図1 振動発電素子の出力が10年前の20倍に
東京大学 年吉研究室が開発したMEMS振動発電素子(a)と、エネルギーハーベスティング(EH)技術の中での位置付け(b)。150Hzはヒートポンプ用コンプレッサーなど民生用小型モーターの振動周波数を想定したとする。年吉研究室が開発した振動発電素子の単位面積当たりの出力は約200µW/cm2で、10年で約20倍向上し、屋内のEH素子としては最も出力が高い水準になってきた。無線通信の電力を連続的に供給するのはまだ難しいが、1分間隔程度の間欠的な通信であれば利用可能といえる。(写真:年吉研究室、図:日経クロステック)
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 振動源の有無や種類に依存はするものの、環境にある各種の微小エネルギーを収穫するエネルギーハーベスティング(EH)技術の中では、以前は大差がなかった室内向け太陽電池に大きく差をつけた格好だ。

 今回開発されたMEMS振動発電素子は寸法が2cm×3cmで、0.65Gという加速度と150Hzという周波数の場合の出力が約1.2mWと、同程度のサイズの素子としては初めて1mWを超えた。出力がミリワット(mW)オーダーになると、想定できる用途が大きく広がる。1分ほどの間欠的な通信であれば、無線通信への適用も視野に入ってくる。

出力向上のポイントは4点

 このMEMS振動発電素子を開発したのは東京大学 生産技術研究所 マイクロナノ学際研究センター 教授の年吉洋氏の研究室など注1)、1)年吉氏はこの成果で2020年12月にオンラインで開かれた国際学会International Electron Devices Meeting(IEDM)2020で招待講演し2)

注1)静岡大学 工学部 機械工学科 教授の橋口原氏の研究室、鷺宮製作所、東京都市大学との共同研究成果。

 年吉氏によれば、発電効率や出力の向上につながったポイントは大きく4点だという。具体的には、(1)振動のエネルギーから取り出せる電力を最大化する理論の確立、(2)MEMSの製造プロセス技術の向上(微細化)、(3)寄生容量の低減、(4)振動発電素子中のエレクトレット電位の増加、である。これらの出力向上技術を総合した結果、同研究室内での比較ではMEMS振動発電素子の出力は約2年の間に約37倍も向上したとする。

エレクトレット(電石)=半永久的に正または負に帯電した素子または材料。磁力を生み出す磁石(マグネット)との対比で名付けられた。フッ素系樹脂を帯電させたものが多い。振動発電の一種ともいえるエレクトレットコンデンサーマイクなどでの応用が一般的。