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 米国時間の2021年1月20日、ジョー・バイデン氏の米大統領就任式が開催される。トランプ大統領は就任式を欠席する意向で、退任する大統領が出席しないのは152年ぶり。

 1月6日、トランプ大統領の支持者らが米連邦議会議事堂に乱入し、死傷者を出すという前代未聞の事件が発生した。米Twitter(ツイッター)は1月8日、暴力扇動の危険があるとして、トランプ大統領のアカウントの永久停止を発表した。

永久停止されたトランプ大統領のツイッターアカウント
永久停止されたトランプ大統領のツイッターアカウント
(出所:Twitter)
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 1月10日にはトランプ大統領の支持者らが愛用する新興SNS(交流サイト)の「Parler(パーラー)」に対し、米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)がクラウドサービスの提供を停止した。米Google(グーグル)や米Apple(アップル)もパーラーのアプリ配信を停止。1月11日には米パーラーがAWSを反トラスト法(独占禁止法)に違反しているとして提訴した。

 米国のソーシャルメディア空間で何が起こり、政治にどのような影響をもたらしているのか。米国政治・外交を専門とする中山俊宏・慶応義塾大学総合政策学部教授に聞いた。

トランプ氏のSNS活用術をどう見ていますか。

 トランプ政権の誕生にツイッターなどソーシャルメディアの存在は欠かせません。2008年に当選したオバマ前大統領は「米国における初めてのソーシャルメディア大統領」と呼ばれました。しかし今から振り返れば、オバマ氏は従来の政治キャンペーンにおけるテレビやラジオの代わりに当時勃興していたSNSを活用したにすぎません。

ソーシャルメディア空間にたまっていた負のエネルギー

 トランプ氏の場合は単に自分の主張を発信するだけでなく、ソーシャルメディア空間にたまっていた負のエネルギーを敏感に察知し、それをあおって、自分の政治的な影響力に変換しました。その意味で、米国政治における本来の意味での初めてのソーシャルメディア大統領はトランプ氏ではないかと私は考えています。

 トランプ大統領が誕生する前からそうした兆候はありました。(保守派のポピュリズム運動とされる)ティーパーティー(茶会)運動です。運動というと、普通はリーダーがいて、そのリーダーが何を目指すべきかを語り、それに従うフォロワーたちがいます。

 ティーパーティー運動には「大きな政府は嫌だ」「オバマケアはダメだ」といった運動を突き動かす衝動はありましたが、中心的な人物は存在せず、核心的な思想をつかもうとすると指の間からこぼれてしまうような感じでした。しかし間違いなく運動はある。それは否定しようがなく、ソーシャルメディア上に「いいね」や「リツイート」を介して膨れ上がっていくエネルギーのような存在でした。

中山俊宏・慶応義塾大学総合政策学部教授
中山俊宏・慶応義塾大学総合政策学部教授
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 人々の怒りや不満、嫌悪感、不信感といったネガティブな感情は常にあり、これまでも政治を突き動かしてきました。しかし普通は政治家に吸い上げられワシントンで討議可能な言葉に変換されて議会で審議されたり、あるいは圧力団体が争点化したりするわけですが、そういう中間的なプロセスを全部飛ばしてソーシャルメディア空間にいきなり「剥き出しのエネルギー」が直接入ってくるような状態になりました。

 そのようなエネルギーが運動体になったのがティーパーティー運動であり、それを選挙のエネルギーに変換できると察知したのがトランプ氏です。ツイッターをはじめとするソーシャルメディアがなければトランプ大統領は誕生していなかったといっても過言ではないと思います。

中山教授はパーラーにも早くから注目してきました。

 トランプ時代に入って、保守系メディアのFOXニュースなどが保守的なソーシャルメディア空間と共振し始めます。大統領自身が「ツイッター大統領」だったわけですから当然です。CNNのような主流派のメディアを介して理解する世界と、FOXニュースを介して理解する世界はまるでパラレルワールドのように全く異なるものになっています。