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 三菱電機で設計不正が発覚した。リコールは避けられず、賠償金(リコール対策費用)の支払いは必至だ。それだけでは収まらず、自動車メーカーからの失注(受注を失うこと)の事態に陥る恐れもある。

 自動車メーカー出身のあるコンサルタントは「私が担当なら取引を解消し、二度と発注しない。この一件で三菱電機に対する信頼はゼロになるのでは」と言う。ものづくりに詳しいコンサルタントはこう指摘する。「日本のみならず、世界におけるものづくりの信頼関係を破壊する行為。自動車メーカーを巻き込んだ業界全体の大問題に発展する可能性がある」──。

車載ラジオの不適合品を出荷し続けた三菱電機
車載ラジオの不適合品を出荷し続けた三菱電機
欧州RE指令に不適合と知りながら「偽の適合宣言書」を作成し、顧客である自動車メーカーに提出。3年4カ月もの間、不適合品を自動車メーカーに納品し続けていることが発覚した。(イラスト:穐山里実)
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 設計不正の対象は、車載オーディオ機器用ラジオ受信機(以下、車載ラジオ)。自動車メーカーが欧州市場で販売するクルマに搭載する製品である。内容は、法規制に対する違反だ。欧州委員会が定めた、欧州域内のラジオなどの電波受信器に対する指令である「欧州無線機器指令(Radio Equipment Directive、以下、欧州RE指令)」に適合しない製品(以下、不適合品)を、それと知りながら顧客である自動車メーカーに出荷し続けていた。不適合品の出荷台数は33万5238台に及ぶ。

 不適合品が与える使用上の影響はそれほど大きくはなく、「欧州地域でAMラジオを受信した際に音声にノイズが混入する可能性がある」と三菱電機は説明する*1。だが、法規制に関する違反であるため、「リコールは避けられないのではないか。しかも不正が原因なので、賠償金の支払いはその100%を三菱電機が負うことになるだろう」(元トヨタ自動車の設計者)。

*1 不適合の項目は、(1)伝導雑音性能と(2)長波/中波のSN比性能。前者では0.6dB超過し、後者では最大で5dBの未達があった。

三菱電機本社の外観
三菱電機本社の外観
(出所:日経クロステック)
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リコールに加えて生産停止分の賠償も

 三菱電機は不適合品の具体的な内容を明かさない。仮に車載ラジオの原価が3万円で、工賃が1万円だとすると、リコール1台当たりの賠償金は4万円*2。こう仮定すると、130億円を超える賠償金の支払いを同社は余儀なくされる可能性がある。それだけではない。三菱電機は設計不正の発覚以降、車載ラジオの生産・出荷を止めた。これにより、自動車メーカーがクルマを生産できない分の損害賠償まで三菱電機は負わされる可能性がある。

*2 車載オーディオ機器はユニット交換構造となっており、インスツルメントパネルのセンターコンソールを外して所定の位置にはめ込むだけ。従って、工賃は比較的低く抑えられるという。

 だが、これらの賠償金以上に深刻なのが、失注のリスクである。今回の設計不正の経緯を追うと、三菱電機の「悪質さ」が透けてみえる。顧客である自動車メーカーに不適合品を納めた上に、偽装・隠蔽工作まで行っていたからだ。設計を手掛けたのは、同社の三田(さんだ)製作所(兵庫県三田市)である。

 悪質だと言える点は3つある。[1]「偽の適合宣言書」を自動車メーカーに提出、[2]改造品での適合性評価試験の受審、[3]不適合品の生産・出荷を継続、である。

 三菱電機が設計不正に手を染めた経緯はこうだ。