中央省庁に加えて地方自治体や独立行政法人など公的機関も共同利用する、空前の規模のクラウド基盤構想が、早ければ2022年度の一部運用開始を目指し動き出す。自治体に対しては、基幹系システムの稼働環境として採用する努力義務を法律で課す方針であることが日経クロステックの取材で明らかになった。実現すれば自治体とITベンダーともに対応には大きな変革が迫られるのは必至だが、国と地方の基幹系システムを全て飲み込む超巨大クラウド構想は本当に実現するのか。
政府が行政デジタル改革の一環として構築するクラウド基盤「Gov-Cloud(仮称)」は、2021年9月に発足する「デジタル庁(仮称)」が構築・運用を担当する。2020年12月下旬に閣議決定した行政デジタル改革の基本方針で構想を明らかにしており、2021年度に実証実験や設計に着手する。
政府は自治体が運用する基幹系システムの標準化を進めている。自治体には既に2025年度までを期限として国が定めた標準システムへの移行を義務付ける方針を公表済みだが、自治体にとってはGov-Cloudへの移行も同時に検討するべき事項となる。
民間クラウドを組み合わせ調達
Gov-Cloudの機能や提供条件など「詳細は決まっていない構想段階」(内閣官房IT総合戦略室)だが、努力義務を盛り込んだ法律を整備することで、Gov-Cloudへの移行を優先的に検討するよう求めていく。具体的には、デジタル改革関連法案の1つとして自治体システムの標準化法案を準備しており、2021年2月をメドに国会へ提出する。
同法案は、自治体が2025年度までに、国が定める標準仕様に対応した基幹系システムへ移行するよう義務付けることが主な趣旨だ。併せて標準に準拠した自治体の基幹系システムは「政府が提供するクラウドコンピューティング環境を利用するよう努力する義務」も盛り込む予定だ。Gov-Cloudの利用を想定した条項である。
なぜ政府は自治体にGov-Cloudの採用を強く求めていくのか。担当する内閣官房IT室は、「政府が民間のクラウドベンダーから一括調達するクラウド基盤を利用してもらうことで、自治体システムの大幅なコスト低減を後押しできる」とする。業務アプリケーションのコスト適正化は仕様の標準化によるベンダー間の競争で、インフラのコスト低減は民間パブリッククラウドの一括調達による効果で、それぞれ実現させる算段だ。
実際、政府はGov-Cloudについて、民間のクラウドベンダーからIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)やPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)を調達して構築する方針だ。2020年10月に米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のサービスを採用して稼働した第2期の政府共通プラットフォームが先行事例となる。
とはいえ中央省庁の中小規模の業務システムが主な対象だった第2期政府調達プラットフォームと比べ、Gov-Cloudは共同利用の対象が大幅に広がる。調達するクラウドの規模もさらに大きくすることを想定している。ベンダーにコストや機能を競わせて、用途などで複数のサービスを組み合わせて使う「マルチクラウド」になるという。