全4849文字
PR

 ソフトバンクから転職した楽天モバイルの従業員(以下「X氏」)が2021年1月12日、不正競争防止法違反の容疑で警視庁に逮捕されました。技術者が転職する際、あらぬ疑いをかけられないためには、どんな点を注意すればよいのでしょうか。ポイントを解説します。

決して他人事ではない

 皆さんは、子供の頃、「あなただけに私の秘密を教えてあげる。他の人には絶対ナイショだからね!」と念押しして告げられた友達の秘密を、うっかり他の友達にバラしてしまったことはないでしょうか?

 誤解を恐れずにいえば、今回の逮捕容疑である不正競争防止法(以下「法」)とは、大人がこれをやったら大変なことになるよ、という法律です。例えば、以下のような場合には、「営業秘密」侵害罪として10年以下の懲役もしくは2000万円以下の罰金、またはその両方で処罰される可能性があります(法第21条第1項各号)。

  • 会社から営業秘密である電子データへのアクセス権限を付与された従業員が、金銭を得る目的で、自分のPCにその複製データを作成した場合(第3号ロ)
  • 会社から営業秘密である電子データのアクセス権を付与された従業員が、当該データを自分のUSBメモリーに複製記録していたが、金銭を得る目的で、このUSBメモリーをライバル会社に譲渡した場合(第4号)
  • 会社から営業秘密を口頭で開示された従業員が、金銭を得る目的で、在職中、転職を計画しているライバル企業に対してこの営業秘密の開示を持ちかけ、転職後にこのライバル企業に開示した場合(第6号)

 さて、冒頭の事件に話を戻すと、ソフトバンクによれば、X氏は同社との間で秘密保持契約を締結していたにもかかわらず、退職申告から退職するまでの期間に、同社の営業秘密を不正に持ち出していたとのことです。仮にこれが事実であるとすれば、X氏は、前述した営業秘密侵害罪として処罰される可能性があります。さらに、「やり得」防止の観点から、X氏が営業秘密持ち出しの報酬として金銭を受け取っていた場合には没収(法第21条第10項)、既に金銭を使ってしまっていた場合には追徴される可能性があります(同第12項)。

 加えて、X氏は営業秘密侵害行為(法第2条第1項第4号・第7号)をしたとしてソフトバンクから損害賠償などを請求される可能性があり(法第3条・第4条)、場合によってはX氏のみならず楽天モバイルも請求対象になります(法第2条第1項第5号・第6号・第8号・第9号)。

 このように、営業秘密を不正に取得した場合には、刑事・民事両方の責任を追及されるばかりか、転職先にも多大な迷惑をかける可能性があります。

(出所:artswai/PIXTA)
(出所:artswai/PIXTA)

 今回の事件は、営業秘密を不正に取得していない技術者にとっても全く他人事ではありません。

 なぜなら、転職した技術者に対して転職元が嫌がらせ目的で、「技術者が転職元の営業秘密を不正に取得した」との警告文を送ったり、「転職元の営業秘密が転職先において流用されている」として技術者や転職先を訴えたりする可能性もあるからです。営業秘密は会社にとって競争力の源泉です。営業秘密に触れる機会の多い技術者のライバル会社への転職は、転職元にとって技術者および営業秘密の流出という二重の意味での競争力の低下につながりかねない一大事です。従って、転職元は何とか技術者の転職を防ごうと躍起になりますし、それができないとなれば、このような嫌がらせをしてくるかもしれません。

 技術者の方々は、将来、「営業秘密を不正に取得した」などとあらぬ疑いをかけられぬように、現在は転職の意思がなかったとしても日ごろから情報管理を徹底することをお勧めします。

営業秘密を知ることが情報管理の第1歩

 情報管理のポイントは次の4つです。

(1)営業秘密を理解し、必要なく近づかない
(2)必要に迫られ営業秘密に接する場合には、その内容をできる限り特定する
(3)閲覧などの記録を残し、営業秘密は持ち出さない、複製しない
(4)営業秘密と自分のアイデア・ノウハウなどの混合(コンタミネーション)を避ける

 この4つについて順に説明していきます。