2021年1月末、車載半導体不足に続いて*1、車載半導体の値上げの記事がメディアにあふれた。自動車産業ピラミッドの頂点にいるトヨタ自動車をはじめとする自動車メーカーはさぞ面食らっているだろう。部品メーカーを生かさず殺さずの絶妙なあんばいで価格調整することに長(た)けた自動車メーカーが、デンソーなどのTier 1と呼ばれる部品メーカーよりも下層(Tier 2)に位置する半導体メーカーから値上げを宣告されたからだ。自動車メーカーの立場がなぜ悪化したのか、早晩回復するのか、考察した。
一昔前と比べて自動車に使われている半導体は大幅に増えている。昔のクルマにはない快適さや安全性の実現は半導体なくしては難しい。今後のクルマの進化、いわゆるCASE(Connected、Autonomous/Automated、Shared、Electric)においても半導体は欠くことができない部品である。半導体メーカーから見ても、自動車産業はお得意様である。しかし、最上級の顧客とは言い切れないのが実態だ。半導体メーカーにとって、もうけが少ない割に、品質を問われるなど面倒な相手だからだ。
米国の調査会社IC Insightsが発表した24年までの半導体市場予測(ニュースリリース)では、車載半導体の年間成長率は高いものの24年になっても市場全体の10%に達しない。コンピューターと通信で7割を占める。車載半導体は民生の12.5%よりも小さい9.7%と予測されている。
もう少し例を挙げる。日本のメディアの記事を見ていると車載半導体の専門店に見えるルネサス エレクトロニクスでさえ、車載半導体の比率は売上高の半分程度である。欧州の車載半導体大手といわれている独Infineon Technologies(インフィニオン)やオランダNXP Semiconductors(NXPセミコンダクターズ)では車載半導体の比率は約4割、伊仏合弁STMicroelectronics(STマイクロエレクトロニクス)では約3割といったところだ。欧州などの政府関係者から車載半導体増産への協力を嘆願された台湾TSMCでは、売り上げに占める車載向け製品は3%にすぎない(20年第4四半期)。
数量が少ない他にも、車載半導体は使用環境が厳しく、製品(クルマ)の使用年数が長いため、高い信頼性が要求される。車載半導体の信頼性の担保が重要なことは、最近話題となっている、米Tesla(テスラ)のリコールで明らかだ。同社は、一般的な信頼性の民生機器用半導体を使い、それが故障の原因になったといわれている*2。高い信頼性を担保するにはコストがかかる。例えば、試験コストが上がる。時間がかかる(すなわちコストが上がる)加速試験(高温など厳しい条件での試験)を行って、短期間で故障する恐れがある製品を、出荷前にはじいておく必要があるからだ。
数は出ない、製造コストは高い、と半導体メーカーにとってはありがたくない面がある車載品。それが、もてはやされてきた理由は、成長率の高さにある。ところが、新型コロナウイルスで状況が一変した。クルマの需要が減ったため、自動車メーカーは車載半導体の購入を控えるようになった。それに対応して半導体メーカーは減産したのに、中国の自動車需要の回復や電動化の推進政策などによって、急に増産してほしいと言われても対応しきれない、いやしたくない、のかもしれない。かつては、ピラミッド構造の下方にいる機械系の部品メーカーは自動車メーカーの要請にしたがって減産や値下げに応じていた。自動車メーカーが最上級の顧客だったり、小規模な部品メーカーでは納入先が自動車メーカーや上位の部品メーカーしかなかったりしたためだ。