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 「給与デジタル払い(ペイロール)」が2021年春にも解禁される可能性が出てきた。給与の支払い・受け取りに銀行口座を介さず、「PayPay」や「d払い」といった電子マネーでできるようにするものだ。2021年1月28日の労働政策審議会労働条件分科会で、厚生労働省が解禁を議題に出した。

 労使が参加する分科会では解禁に慎重な意見も出ており、詳細な制度設計や開始時期がどうなるかは流動的だ。現時点で想定される範囲で、企業や労働者、IT部門などに与える影響をまとめた。

給与は年間240兆円、一部が電子マネー事業者に

 企業や官公庁が個人に支払う給与は年間240兆円ほどあるとされる。従来は大部分が銀行口座に入り、消費だけでなく預金などに回って銀行の経営を支えてきた。この構造が根本的に変わる可能性がある。

給与デジタル払いによる資金の流れの変化
給与デジタル払いによる資金の流れの変化
(出所:Fintech協会)
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 電子マネー事業者にとっては膨大な資金の一部の受け皿になって、事業を拡大する好機となりそうだ。金融関連ベンチャー企業の業界団体であるFintech協会の堀天子常務理事は「労働者にとって給与受け取りの選択肢が広がるだけではなく、事業者にとっても様々なビジネスの可能性が広がる」と話す。

 PayPayやメルペイ、d払いを運営するNTTドコモなどは、財務局に資金移動業者として登録している。2020年末時点で登録事業者は80社。電子マネー事業者の他、在日外国人向けに送金サービスを提供する企業などが含まれる。

賃金は現金払いが原則

 PayPayやd払いには送金機能がある。既に、雇用契約がないフリーランスらへの報酬を企業が支払う際には一部で使われている。ただし、企業が正社員や契約社員、パート・アルバイトらにこの方法で支払うことは禁じられている。労働基準法で「賃金」とされる報酬については全額現金払いが義務づけられているからだ。

 銀行口座への給与振り込みは現金払いではないが、「労働者の同意を得る」「給与支払日の朝までに引き出せる状態にする」といった一定の要件を満たせば認められる。厚労省は、今後この要件をさらに緩和し、資金移動業者への送金も認めることを検討している。法改正は必要ないが、労働政策審議会での審議を経て省令などを改正する必要がある。

企業には人材を集めやすくなるメリット

 賃金を受け取る労働者にとってのメリットは、ATMに並んで現金を引き出したり、銀行口座からPayPayなどに資金をチャージしたりしなくても、そのまま買い物ができる点にある。正社員として働き、クレジットカードの審査が通りやすい人にとってはメリットを感じにくいかもしれない。

 一方で、例えば学生のアルバイトで、クレジットカードを作れなかったり、そもそも銀行口座を持っていなかったりする場合は、より簡単に賃金を受け取れるメリットは大きい。外国人労働者は言葉の問題で銀行口座開設手続きに苦労する場合があるが、スマートフォンアプリ上の電子マネー口座なら比較的手続きがしやすい。

 賃金を支払う企業側のメリットは、労働者の便宜を図ることでアルバイトや外国人などの労働力を集めやすくなることにある。正社員の副業が奨励されつつある現状では、短時間勤務のIT技術者などの人材も集めやすくなるかもしれない。