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 米Tesla(テスラ)CEO(最高経営責任者)のElon Musk(イーロン・マスク)氏が、「『モデルY』で最も重要な部品の1つ」として挙げる部品がある。自動運転機能をつかさどる車載コンピューターでも高容量なリチウムイオン電池でもない。

 マスク氏が「特にすごい」と自賛するのが、「Octovalve(オクトバルブ)」と名付けた電気自動車(EV)の熱マネジメントシステムの“司令塔”だ。複雑な機構に目を奪われるが、オクトバルブの真価はクルマを購入した後の進化にある。ソフトウエア時代のハードウエアの在り方を示唆する重要部品の全体像が見えてきた。

中央集中型の熱マネジメントシステム

 「こんな部品は見たことがない」。驚きを隠さないのは、年間約80台の新型車を分解・調査するベンチマーキング会社であるフランスA2Mac1の日本法人でマネージングダイレクターを務める蜷川大地氏である。同社の創業は1997年で、欧州車だけでなく日本車や中国メーカーのEVなど900台を超える車両を分解した実績を持つ。2020年に分解した車両から出てきた部品の中で、ひときわ異彩を放っていたのがテスラのオクトバルブだったという(図1)。

図1 テスラの「Octovalve(オクトバルブ)」
図1 テスラの「Octovalve(オクトバルブ)」
EV「モデルY」に初搭載した。熱を運ぶクーラントを8方向に分配する。(出所:A2Mac1)
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 オクトバルブは、室内の空調やリチウムイオン電池、パワートレーン、ECU(電子制御ユニット)など、冷却・加温が必要な部品の熱マネジメントの中核を担う部品である(図2)。すべての冷却・加温の回路をオクトバルブとつなげ、熱を運ぶ水(クーラント)が流れる経路を条件に応じて切り替える。

図2 モデルYの熱マネジメントシステムの全体像
図2 モデルYの熱マネジメントシステムの全体像
空調やリチウムイオン電池、パワートレーン、ECU(電子制御ユニット)など、各部品を加温・冷却する回路はすべてオクトバルブとつながっている。(出所:A2Mac1)
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 車両は一般に、空調やリチウムイオン電池など、部品ごとに独立した冷却・加温の回路を備える。ドイツAudi(アウディ)のEV「e-tron」のようにモーターの排熱を暖房に活用できるように回路を組んだ例はあるが、車両のシステム全体で熱を最適管理するように構成するのは「過去に例がない」(蜷川氏、図3)。

図3 アウディ「e-tron」の熱マネジメントシステムの全体像
図3 アウディ「e-tron」の熱マネジメントシステムの全体像
(出所:A2Mac1)
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 オクトバルブの名前がラテン語で「8」を意味する「オクト」に由来するように、内部には8つの流路を備える。2層構造で、各層はクーラントを4方向に分配する。これにつながる配管は9本で、1本の配管は閉じた状態となる。A2Mac1の分析によると、オクトバルブには「4つのポジション(位置)がある」(同氏)という(図4:動画)。これによって、12種類の加温モードと3種類の冷却モードを切り替えられる。

図4 4つのポジションがあるオクトバルブ(クリックで動画再生)
12種類の加温モードと3種類の冷却モードを切り替えられる。オクトバルブにつながる配管は9本あり、このうち図中の⑤か⑥のどちらかが閉じた状態になる。(出所:A2Mac1)

 例えば、気温が低い気候で走行しているときは、モーターやインバーターなどから成る電動アクスルやリチウムイオン電池から発生する熱を暖房に伝えるようにする。停車して急速充電する際は、電池が過熱しないように熱をラジエーターに流して外気に放出する。気温や各部品の温度状況などに応じて使い分ける15種類の加温・冷却モードを、オクトバルブの位置によって制御しているのだ。

 中央集中型とも呼べるオクトバルブを使った熱マネジメントシステムの利点の1つは、部品点数の削減である。モデルYの熱マネジメントシステムを構成する部品の点数は72個で、質量は33.1kg。ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)のEV「ID.3」は部品点数が78個で質量は42.5kgだったという。

 A2Mac1の調査によって、フランスPeugeot(プジョー)の小型車「e-208」やドイツMercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)の「EQC」など、他社のEVよりも「シンプルな部品構成の熱マネジメントシステムを実現している」(同氏)ことが分かった。

 だが、部品点数を減らすことがオクトバルブの本質ではない。真価を発揮するのは、ソフトの遠隔更新で性能を向上させる「OTA(Over The Air)」と組み合わせたときだ。