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 2021年9月のデジタル庁(仮称)創設に向けた準備が急ピッチで進んでいる。報道によれば、政府は2021年2月8日の週にもデジタル改革の関連法案を閣議決定する見通しだ。これはデジタル庁設置法案や、デジタル社会実現の基本理念を規定するデジタル社会形成基本法案などを含んでいる。

 その後、今国会に提出して成立を目指す。2000年に制定したIT基本法に代わってデジタル社会形成基本法が国のIT政策の理念や基本方針を示すことになる。

 これらの法案には有識者の提言が反映されている。慶応義塾大学の村井純教授やNECの遠藤信博会長など9人が政府の「デジタル改革関連法案ワーキンググループ(WG)」で2020年11月13日に示した「IT基本法への提言」および「デジタル庁設置への提言」である。

 同WGの座長を務めた村井教授は「具体的な法案の文言は法案作成の専門家が作成したが、有識者の提言を受け入れ、それに沿う形にしてもらったと感じている」と話す。村井教授は2020年10月からデジタル政策分野について菅義偉首相に助言する内閣官房参与も務めている。

慶応義塾大学の村井純教授。デジタル改革関連法案ワーキンググループの座長を務め、「日本のインターネットの父」としても知られる
慶応義塾大学の村井純教授。デジタル改革関連法案ワーキンググループの座長を務め、「日本のインターネットの父」としても知られる
(撮影:川津貴信)
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 「IT基本法への提言」には15項目の提言が示されている。具体的には「価値の源泉としてのデジタルデータ」「地方」「防災体制」「健康」「デジタルの日」などだ。村井教授は15個のうち最も重要な特徴は「最初の3つ」と話す。

「デジタル敗戦」を反省

 1つ目は「情報アクセシビリティー」である。年齢や障がい、身体機能、知能、言語、性などにかかわらず、全国民が公平に安心して有用な情報にアクセスできる環境を求めた。

 2つ目が「置いてきぼりをつくらない」。国民に対して社会のデジタル化を推進する意義と効用を丁寧に伝え、その成果を国民に行き渡らせるための責任を持った体制を確立する必要性を訴えた。

 この2つを最初に持ってきた理由は、「10万円」特別定額給付金や接触確認アプリ「COCOA」に関するトラブルなど、新型コロナウイルス禍で露呈した国のデジタル化の遅れ、すなわち「デジタル敗戦」の反省があるという。デジタル敗戦に至るまでには20年に及ぶ歴史がある。

 はじまりは2001年に策定された「e-Japan戦略」まで遡る。世界最高水準の高度情報通信ネットワークの形成を重点目標に掲げた。

 これによりブロードバンドが順調に広がったため、2003年に政府のIT戦略本部はe-Japan戦略を見直して、戦略の重点をインフラの整備からIT利活用の促進に転換。「e-Japan重点計画2003」で、患者や医療機関に関する情報のITによる共有化、ITを活用した遠隔教育の推進、24時間365日ノンストップ・ワンストップの行政サービスの提供などを掲げた。

 それから17年以上がたったが、これらの施策や目標が成し遂げられたとは言いがたい。村井教授は「(紙や対面でのやり取りの代わりに)インターネットを使ってもよいという形で制度や環境の整備が進められたためだ」と総括する。

 「インターネットを使えない人がいると困るという配慮から、行政サービスのデジタル化は特に遅れた。その反省から『情報アクセシビリティー』と『置いてきぼりをつくらない』を最初に入れた。誰もが有用な情報にアクセスできる環境で置いてきぼりをつくらないことを前提としたうえで、行政手続きなどはデジタルを基本として、それが難しい場合には困っている人を支えるという環境を整備しなければ、この国のデジタル化は進まない」(村井教授)。

災害やパンデミックで広がった「テクノロジーの善用」

 提言の3つ目に入れたのは「テクノロジーの善用」である。デジタル技術やデータが悪用されないようにサイバーセキュリティーの体制を確立するとともに、人や社会、国際社会、そして地球のためになるようにデジタル技術を用いるべきだとした。

 「阪神大震災、東日本大震災、そして新型コロナ。こうした経験を踏まえて、人の命を守るためにデジタル技術やデータを使うというデジタルの倫理的使用や善用をしっかり実現する」。提言の背景を村井教授はこう明かす。