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 大腸内視鏡の画像をAIで解析し医師のがん診断を支援する技術の実用化が相次いでいる。大腸内視鏡事業を展開するオリンパスや富士フイルムが専用AIの販売を開始したことに加え、内視鏡事業を手掛けていないNECが新たに参入した。NECは将来、電子カルテと連携させた診断支援技術の開発を見据える。

NECのAI診断支援ソフトウエアを用いた診療風景
NECのAI診断支援ソフトウエアを用いた診療風景
(出所:国立がん研究センター中央病院)
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 NECが2021年1月に販売を開始したのは、複数社の大腸内視鏡で利用できるAI診断支援ソフトの「WISE VISION 内視鏡画像解析AI」。大腸内視鏡の検査時に大腸の前がん病変(大腸腫瘍性ポリープ)の候補位置をリアルタイムに自動で検出する。検出すると該当部位を表示し、通知音で医師に伝える。

 オリンパスや富士フイルム、HOYAが展開するPENTAX Medicalといった主要な内視鏡メーカーの画像を学習しており、開発したソフトウエアは3社の内視鏡とつないで利用できる。開発に携わった国立がん研究センター中央病院の内視鏡科 科長の斎藤豊氏は21年1月に実施した記者会見で「マルチベンダーで利用できるのは大きな特徴だ」と強調した。

 NECが複数社の内視鏡に対応するAIの開発に挑んだのは、検査の種類に応じて異なるメーカーの大腸内視鏡を使い分ける医療機関があるからだ。「メーカーごとに内視鏡の使い勝手や見え方が異なるが、診断支援AIは同じ操作の方が現場の負荷軽減につながると考えている。どのメーカーの内視鏡と組み合わせて使っても新しく操作を覚える必要がなく、医療現場の導入の負担を減らせる」とNECデジタルヘルスケア事業開発室ディレクターの池田仁氏は話す。

 異なるメーカーの内視鏡に対応するAIの開発は容易ではなかった。メーカーごとに内視鏡画像の色味やコントラストなどに違いがあり、解析のハードルが高くなるためである。NECはそのハードルを越えるため、顔認証の機械学習の技術を応用して開発を進めた。「我々の顔認証技術は、背景の暗さやボケ加減が異なっても毎回同じ人の顔を判断できる。画像が映っている環境が多少変化しても対応するためには、画像の事前処理や学習させるデータなどが鍵を握る」(池田氏)

 NECが特に苦労したのが、学習させる画像の種類と枚数のバランス調整だ。「腫瘍の画像を学習させすぎると、腫瘍でなくても反応してしまう誤検知の恐れがでてくる。顔認証技術を開発したノウハウを生かし、既に学習させた画像と似ている画像は過度に学習させないようにした。医療の知識がない中で画像を選別するコツをつかむまで苦労した」と池田氏は振り返る。

 今後NECは、大腸にできた腫瘍の悪性度を分類して診断を支援するAIを開発したり、対応するがんの種類を増やしたりする方針だ。「様々な企業が開発を進める中で、同様な診断支援ソフトが増えていくだろう。NECの独自性を生かした突破口として、電子カルテとの連携を視野に入れている」と池田氏は意気込む。

 医師は大腸内視鏡の検査中、患者の病歴や年齢、状態など様々な情報を考慮しながら診断している。NECは電子カルテの情報を参考にしながら大腸内視鏡検査の診断を支援するAIの開発を進める。また、診断支援のために分析した結果を電子カルテへ簡単に反映できるようにする方針だ。現状医師は大腸内視鏡検査結果のリポート作成に加え、電子カルテにも内容を記録している。「スムーズな連携が可能になれば、これまでの作業負担が軽減し医師が患者に向き合える時間が増える」と池田氏は指摘している。大腸内視鏡画像の診断支援AIは将来的に、医師の働き方も変える可能性がありそうだ。