政府のデジタル改革で司令塔となるデジタル庁の体制が姿を現してきた。組織の要は民間人から登用する「デジタル監」だ。組織のトップではないが、担当大臣の補佐から組織や実務の監督まで幅広い業務を受け持つ。政府全体でみても民間登用としては最上級の権限を持つ。その専門能力を生かせるかどうかがデジタル改革の成否にも影響しそうだ。
政府が2021年2月9日に閣議決定したデジタル庁設置法案によれば、デジタル庁の長は首相が務め、首相を補佐する形でデジタル庁担当の「デジタル大臣」(仮称)を置く。このデジタル大臣を、民間で培った専門性を生かして補佐するポストがデジタル監である。国会議員が務めることが多い「大臣補佐官」に相当する職務を担う。
デジタル監はもう1つ、デジタル庁の組織と実務を監督するという重要な職務も持つ。既存の省庁では官僚のトップに立つ事務次官に相当するポストである。つまりデジタル監は「大臣補佐官と事務次官を兼ねたような職務だ」(法案作成を担当した内閣官房IT総合戦略室)。
日本では、政治家が自らの裁量権で民間人を評価して登用するという政治任用が極めて少ない。菅義偉首相の首相補佐官の1人に民間出身のジャーナリストを登用しているなどの例はあるが、事務次官に相当する役職まで民間人に委ねるのは極めて珍しい。デジタル監は、政府全体でみても民間登用としては最上級の権限を持つポストとなる。
強い権限の「デジタル大臣」を補佐
デジタル庁を巡っては、平井卓也デジタル改革相が「初代長官には民間出身の女性が就いてほしい」と発言するなど、2020年秋の構想時点では民間トップの組織にする案もあった。しかしデジタル庁に「他省庁よりも強い権限を与える」という方向で議論を煮詰めた結果、同じく内閣直轄で他省庁との総合調整が多い復興庁の形態が採用された。民間人の役割は強い権限を持つデジタル大臣の補佐に落ち着いた。初代のデジタル大臣は平井卓也デジタル改革相が兼務する見通しだ。
デジタル庁の使命は行政の縦割りを打破して霞が関全体のデジタル改革を推進することにある。そのためにデジタル庁は各省庁に対する強力な総合調整機能を持ち、デジタル大臣は各省庁に是正などを勧告できる権限も持つ。
有識者会合の構成員としてデジタル改革の基本方針策定にも携わった、慶応義塾大学の村井純教授は、デジタル庁の役割を「他の省庁よりも50センチメートル高いところにある省庁」と表現する。デジタル政策に関しては総合調整で確実に主導権を発揮して、他省庁を従わせる権限があるという意味だ。
デジタル庁が総合調整を発揮する場面は極めて多くなる。例えば、住民情報や法人登記など国の根幹となる公的基礎情報データベース(ベース・レジストリ)の定義や整備はデジタル庁の業務になる。ベース・レジストリの範囲は今後、各省庁や地方自治体を交えた議論で取り決め、デジタル庁がデータ形式の標準化や組織間の連携業務を主導していく。
マイナンバー関連の政策や業務もデジタル庁にほぼ集約する。さらに、行政手続きの電子化に関する「デジタル・ガバメント実行計画」もデジタル庁が作成する形に変わる。デジタル・ガバメント実行計画はこれまで各行政機関が作成していた。デジタル監はこうした政策決定の場面で、システムアーキテクチャーや業務改革の観点から望ましい姿を示すなど、専門性を生かした提言や助言が求められるだろう。