全2468文字

 先日(2021年2月18日)掲載された日経クロステックの記事によれば、21年9月に発足する予定のデジタル庁には長官を置かない方針のようだ。正直、かなりびっくりしたと同時に、どのような組織運営の姿を描いているのか、かなり疑問に思った。この記事によれば、デジタル庁は局や課といった従来型の組織ではなく、プロジェクト単位でチームを作るプロジェクト制となるようだ。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)
[画像のクリックで拡大表示]

ITコンサル企業が採用するプロジェクト制

 日本におけるIT企業の多くは部や課といったものが存在し、それぞれに果たす役割が決まっている。一方で、ITコンサルタント企業ではプロジェクト制の企業が多い。私は両方の企業を経験したことがあるが、プロジェクト制を採用する組織は合理的に見える一方で、組織運営において非常に難しい点も存在する。

 プロジェクト制を採用する組織では、人の移動は流動的である。それぞれのミッションが明確であり、ミッションが完了するとプロジェクトからは抜けて、他のプロジェクトへ移るからだ。その分、マネジメントは非常に複雑になる。例えば、プロジェクト制の組織運営の場合、以下のようなことを考慮しなければならない。

  • どのプロジェクトにも参加していない人は何をするのか。
  • 個人の中・長期的な成長を誰が見守り、管理するのか。
  • プロジェクトに参加するメンバーを誰がどう決めるのか。
  • 個人の評価を誰がどのように決めるのか。
  • 悩みを持ったとき、誰が相談に乗るのか。
  • どのプロジェクトにも入れてもらえない人が出るのではないか。

 このように、プロジェクト制では所属する個人に対し、誰がどのような責任を持って管理するのかが曖昧になりがちだ。ITコンサル企業の場合、プロジェクトに所属しない人は人事部が管理する組織に一旦配属となり、教育や社内のシステム管理などに従事することとなる。プロジェクトが立ち上がれば、メンバーを募集し、社内での面接などを経てメンバーが決まる。個々のプロジェクトメンバーに選ばれない人は、成果としてはゼロに近くなるため評価もかなり低くなり、それに合わせて年俸も低くなる。

 そもそもITコンサルタントの場合、会社に採用されることからしてかなり難しい。スキルがあることは当然で、全員が何かのスペシャリストである。そのため、基本的にはどのプロジェクトからも声が掛からないということはあまりないという前提がある。このような成果主義を採用するからこそ、プロジェクト制が成り立つのだ。

デジタル庁でプロジェクト制は可能か

 そう考えると、デジタル庁でプロジェクト制を採用することには非常に不安を覚える。そもそも、庁という公的な組織に合う制度ではない。

 今回、デジタル庁は民間からも多くの人材を採用し、また既存の省庁からも人を集める。つまり、組織としてまだ骨格ができていない状態だ。そんな状態で、プロジェクト制をうまく回すことは可能なのか。それを成功させるには、マネジメントスキルがかなり高く、所属メンバーの面倒を見ることができるプロジェクトマネジャーが必要だ。

 最も懸念されるのは、責任の所在が曖昧になることだ。最近では、接触確認アプリ「COCOA」の不具合なども問題となっている。このアプリの運用もデジタル庁が引き取ることになっているが、そもそもCOCOAにおける問題の根幹はマネジメントにある。

 どこでもそうだが、特に省庁では問題が発生したときに責任が自分に降りかからないように動く。その結果、誰も決めない、誰も指示しないという体質が最終的に下請けへの丸投げ体質につながってしまう。

 プロジェクト制といった流動的な組織運営になった場合、さらにその体質が増すのではないかという懸念も生じる。マイナンバーなどに関してはかなり長期のプロジェクトになるだろう。そのプロジェクトの中で、一定のメンバーが定期的に入れ替わると、一体誰がいつ何を決めたのかが分からなくなる可能性がある。さらに、上司と部下という関係が曖昧になるため、管理責任が曖昧になり、誰も管理しない人ができると、「やっているふりをして何もやってない」「隠れて何か悪いことをする」ということが生じやすくなる。

 デジタル庁でプロジェクト制を採用するには、これらの点に十分留意した上で、マネジメントスキルのかなり高い人をマネジャーの役割に充てる必要があるだろう。