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 「企業規模によってテレワークの実施率に差が出ていたり、初回と2回目の緊急事態宣言下で実施率が異なったりしている」「テレワーカーの間で人事評価に関する不安が根強い」――。

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ対策として2020年春以降、多くの企業が在宅勤務を中心としたテレワークを始めた。それから約1年、テレワークの実施状況などを継続して見てきた調査結果から冒頭のような事実が浮き彫りになった。

中小企業でテレワークの普及が進まない

 テレワークの実施率が企業規模によって差があることを調査でつかんでいるのが、パーソル総合研究所(東京・千代田)だ。同社は2020年3月から継続して、全国の就業者1万5000人から2万5000人を対象に「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」をしてきた。調査は2020年の3月、4月、5~6月にかけての間、11月の計4回実施している。直近の2020年11月の調査結果は2021年1月までに公表した。

 パーソル総合研究所の直近の調査で、テレワークを実施している企業の割合は、企業規模が1万人以上の大企業では全体の45.0%だった。一方、企業規模が100人未満の中小企業では13.1%。大企業における実施割合と比べて31.9ポイント低かった。

パーソル総合研究所が得た企業規模別のテレワーク実施率に関する調査の結果。2020年11月に実施したこの調査では、大企業では実施率が高かったが中小企業では低かった
パーソル総合研究所が得た企業規模別のテレワーク実施率に関する調査の結果。2020年11月に実施したこの調査では、大企業では実施率が高かったが中小企業では低かった
(出所:パーソル総合研究所)
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 理由について、パーソル総合研究所の小林祐児シンクタンク本部リサーチ部上席主任研究員は「大企業は個人に対して職務の割り振りがしやすい一方、中小企業では個人が様々な職務を担うことが多く、出社してリアルな場で調整したほうが効率的と考えがちなためではないか」とみている。

 このほか大企業の場合、テレワーク向けにIT投資がしやすいことや、テレワーク関連の社内制度があることなどがテレワーク実施率の高さに関係しているとみている。

 一方、社員にとってテレワークの魅力は高まっているようだ。パーソル総合研究所によると、企業の正社員でテレワークをしている人のうち、コロナが収束した後もテレワークを続けたいと考える人は2020年11月の調査で78.6%に上っている。2020年4月調査では53.2%、同年5~6月の調査では69.4%だった。テレワークの継続希望率は高まる傾向にある。

パーソル総合研究所が得たコロナ収束後のテレワーク継続希望率に関する調査の結果をまとめた図
パーソル総合研究所が得たコロナ収束後のテレワーク継続希望率に関する調査の結果をまとめた図
(出所:パーソル総合研究所)
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 継続希望率の増加傾向について、小林上席主任研究員は「テレワークに慣れてきてメリットを得ている一方、テレワークの課題や不安も全体的に減少する傾向にあるためだと考えられる」とする。

 2020年11月の調査では「感染症のリスクを減らせる」「通勤や移動にかかる時間が削減できる」といったメリットを挙げるテレワーカーが多かった。一方、テレワークの課題や不安についても2020年11月の調査で「運動不足を感じる」「テレワークでできない仕事がある」などを挙げるテレワーカーの回答比率が、同年4月や5~6月の調査に比べて下がっている。

 一連の調査結果を踏まえて小林上席主任研究員は「コロナ感染のリスクがある状況ではもちろん、コロナが収束した後でも、働き方の選択肢としてテレワークがあることは企業の魅力につながる」と説明する。

 11月の調査では「テレワークできる会社・職種に転職したい」と考える人が全体の2割程度いる結果が出ている。様々なグループ別に分析すると、テレワークできる会社や職種に転職したい人の割合が特に高かったのが、「テレワークをやりたいができない」と諦めている人たちのグループで、34.6%だった。就業形態別に見ると、派遣社員のグループでその割合が高く、26.4%に上っている。

 「中小企業でも、業務プロセスの見直しや、マネジメントの工夫を含めたテレワーク下の生産性向上などを進めて、コロナ収束後であっても社員に不必要な出社を強いないようにしていくことを検討すべきだ」。小林上席主任研究員はこう指摘する。

2回目の緊急事態の宣言で在宅の動機が薄れる

 「1回目の緊急事態宣言のときと比べて2回目の緊急事態宣言時のほうがテレワークの実施率が低い」。日本生産性本部は2020年5月から続けてきた、20歳以上の全国の雇用者1100人を対象にした「働く人の意識調査」の中で、こんな結果を得た。2020年の5月、7月、10月と、2021年1月の計4回調査した。

 直近の調査は、2度目の緊急事態宣言の発令直後に当たる2021年1月12日と13日に実施した。この調査におけるテレワークの実施率は22.0%。約2割だった2020年7月や10月の調査と比べて、変化はなかった。1度目の緊急事態宣言が発令されてから1カ月ほどして実施した2020年5月の第1回調査に比べると、9.5ポイント低い結果となった。

日本生産性本部によるテレワーク実施率に関する調査の結果。2021年1月の調査結果は2020年7月や10月と同じレベルにとどまった
日本生産性本部によるテレワーク実施率に関する調査の結果。2021年1月の調査結果は2020年7月や10月と同じレベルにとどまった
(出所:日本生産性本部)
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 この結果を踏まえて、日本生産性本部の柿岡明生産性総合研究センター上席研究員は緊急事態宣言の1度目と2度目で、在宅勤務をする動機の強さに違いが生まれているとみる。「1度目の宣言では、経済や社会で広範な制約が課された。休校になり子供だけを自宅に残すわけにいかず、親も在宅勤務をせざるを得ない状況が生まれていた。一方、2度目は活動の制約が一部の業種に限られたので、在宅勤務の動機は以前より薄れている」とみる。

 さらに、「感染への不安は払拭されてはいないものの、生活の維持や企業経営の持続の必要性から、無理をして在宅勤務を進めるよりも、マスク着用や手洗い、消毒などの感染対策をしながら、適切な働き方を模索するようになってきている」(柿岡上席研究員)。

 生産現場の仕事や、小売業やサービス業など対面で進める必要がある仕事が多いことも、テレワーク実施率の伸び悩みにつながっているようだ。「テレワーカーが多数派になることは今後もない。無理をしてテレワークを導入するのは生産性の観点からも勧められないが、感染リスクを回避するため、テレワークができる職種や業務に携わる人は、できるだけテレワークをすることが望ましい」。柿岡上席研究員はこう指摘する。