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 資源エネルギー庁は今冬の市場高騰の原因を「寒波による需要増とLNG不足による供給力不足」と説明してきた。だが、各種データを検証するとこの原因では市場高騰を説明できないことは明白だ。寒波が原因だというのは、連綿と培ってきた電気事業者の業務スキルを低く見ているとしかいいようがない。

(出所:Adobe Stock)
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 正しい情報が得られない時、人はパニックに陥り、自分の考えよりも流言飛語に容易く飛びつき惑わされてしまうのだ。

 1910年5月、ハレー彗星の接近が間近に迫った時、欧米各国では、この世の終焉が訪れるという噂が飛び交い、パニックとなったといわれている。フランスの天文学者で作家のカミーユ・フラマリオンが「地球がハレー彗星の尾に近づいたとき、大気中にガスが充満し全生命体が死に至るかもしれない」と主張したことを契機に、人々は様々な「彗星対策」に奔走した。自暴自棄になって家財を売って遊ぶ者もいれば、世を儚んで死を選ぶ者もいた。

 2020年12月中旬から2021年1月下旬にかけて発生したJEPX(日本卸電力取引所)の価格高騰は、多くの小売電気事業者をパニックに陥れた。高騰当初の12月半ば頃は多くの市場関係者が予測できる範囲であったのに、それが年末にかけて徐々に逸脱し、新年三が日以降は誰もが呆気にとられるほどの約定金額となった。営利法人としての利益喪失だけでなく、原因不明の事態を目の当たりにした新電力経営者や需給管理担当者の心にも深い爪痕を残したのである。

 そのため、電力業界では今冬の高騰発生要因を巡って、これまでにないくらい情報交換、勉強会が開催されており、さながら百花繚乱であると言って差し支えない。だが、市場高騰を引き起こした要因に関して決定的な論拠がないまま、憶測が憶測を呼んでいる。

 資源エネルギー庁は当初から、寒波による電力需要の増加と、LNG不足による供給量の減少によって市場高騰が起きたと説明してきた。需要増と供給力不足によって需給が逼迫し、限られた売り玉を求めて小売電気事業者各社が争奪戦をした結果、高騰したというものだ。だが、この説明に経験豊富な新電力ほど納得していない。

 そこで本稿では、なぜエネ庁の言う「寒波による需要増」と「LNG不足による供給不足」では市場高騰を説明できないのか、解説したいと思う。