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 三井住友フィナンシャルグループ(FG)が最先端AI(人工知能)の活用にアクセルを踏む。

 自然言語処理に特化したAIである「BERT」をベースにしたAIシステムをこのほど開発した。SMBC日興証券ら2社のコールセンターの照会応答支援業務を皮切りに、三井住友銀行(SMBC)をはじめとするSMBCグループ全体で活用する。同AIシステムの外販も視野に入れており、国内金融機関にBERTの導入が加速する可能性がある。

コロナ禍で重要性高まるコールセンター、総コスト2割削減へ

 新たに開発したのはコールセンターの照会応答業務を支援するAIシステムだ。顧客からの電話やメールを受けたオペレーターが端末に検索用の文章を入力すると、対応する回答を掲載した社内FAQ(よくある質問と回答)のWebページやPDF文書を表示。オペレーターが顧客の問い合わせに素早く正確に答えられるようにする。

 AI技術ベンチャーの米Allganize(オルガナイズ)のほか、日本総合研究所およびJSOLと共同開発した。2021年6月から、まずSMBC日興証券と三井住友カードのコールセンターで使い始める。

新AIシステムの概要
新AIシステムの概要
(出所:三井住友フィナンシャルグループ)
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 三井住友FGは新AIシステムによってコールセンター業務における品質向上と効率運営の両立を目指す。同社によれば、SMBCグループのコールセンター固有の内容を学習させていない状態での「初期正答率」は、新AIシステムが76.0%。SMBCグループが導入済みの既存AIシステムが50.4%と、25.6ポイントの開きがあった。十分な学習を経た後でも、新AIシステムの正答率は93.4%と既存AIシステムより1ポイント高かった。

 学習後の正答率の差はわずかといえるが、学習効率は新AIシステムが大きく上回った。新AIシステムに4000件のFAQ文書を学習させるのにかかった時間は2カ月と、既存AIシステムの3分の1で済んだ。

 運用開始後の学習効率もより高められるとみる。新AIシステムはオペレーターが選んだ回答を「正解」として自動的に学習する。

 既存AIシステムが学習するには、回答が「役に立った」「役に立たなかった」などとオペレーターが明示的にフィードバックする必要があったが、新システムではそれもなくなる。既存AIシステムを運用するSMBCのコールセンターで受け付ける問い合わせは1日およそ1万件で、フィードバックされるのは1割にすぎなかった。

 新AIシステム稼働後の当面の目標について、三井住友FGの内川淳執行役員FGIT企画部長は「コールセンター運営の総コストの2割削減」とする。SMBCによれば既存AIシステムを2016年4月に導入して以来、正答率は90%を達成した。

 その他にも、問い合わせ1件当たりのコストを60円削減、顧客満足度を8.4ポイント向上、新人の離職率を48ポイント削減といった効果があった。より精度の高い新AIシステムを使って従来を上回る効果を上げ、人件費やシステム関連費用を含めた総コストの2割削減を目指す。

 新型コロナウイルス禍により、コールセンターの重要性は一段と増している。対面や密を避けて店舗を訪れる客が減り、代わってコールセンターへの問い合わせが増えているからだ。

 同じ取引でも実施主体によって回答すべき内容が変わるなど照会応答が複雑なうえ、スマートフォン決済へのチャージ方法など問い合わせ内容が多様化している。数と種類を増す問い合わせに効率良く応答するため、新AIシステムへの期待は大きいという。