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 理化学研究所は2021年3月9日より、スーパーコンピューター「富岳」を広く学術・産業向けに提供し共同で利用する「共用」を始める。

 「あれ、富岳ってもう使われているんじゃないの。新型コロナウイルスの飛沫シミュレーションに使っているはず」と思う人も多いだろう。実はこれは特例の措置だ。コロナ禍に対応するために、コロナ関係の利用に限って認めていた。

 今回始まるのは「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)」というスパコンの共用基盤を通じての一般利用だ。当初は2021年4月から共用を始める予定だったが、予定よりわずかに早めた。

 HPCIは理研の先代スパコン「京(けい)」の設置を機に、理研や国立大学などスパコンを持つ研究機関を中心に運用を始めた共用基盤である。蓮舫参議院議員の「2位じゃだめなんでしょうか」発言で有名になった京を巡る議論の中で、もっと多くの企業にとって使いやすいものであるべきではないか、との同議員からの指摘を受けて始めたものだ。

 成果を公表する課題については原則無償で利用できる。毎年課題を募集する定期募集課題と、随時募集する課題の2種類がある。2021年3月に始めるのは2021年度の定期募集課題への利用だ。

 2021年度の定期課題としては特に「感染症対策に資する研究開発」と「次世代コンピューティングに資する基盤研究開発」の2つのテーマが重点課題とされ、9つの課題が採択された。例えば、新型コロナの飛沫シミュレーションで話題になった神戸大学・理化学研究所の坪倉誠教授の研究は、引き続き重点課題として採択されている。このほか立教大学の望月祐志教授による「新規感染症のための計算科学的解析環境の整備」、理化学研究所の徳久淳師研究員による「テンプレートマッチング法によるコロナウイルス-スパイクタンパク質構造多形に関する研究」などが重点課題として採択された。

 京ではあまり利用が伸びなかったとされた産業向けでも14個の課題が採択されている。大学など研究機関によるものもあるが、TOTO、住友ゴム工業、富士フイルムなど一般企業による課題もある。広く使われているArm用のツールが利用でき、京よりもずっと使いやすいとされている富岳の真価が発揮されるかどうか、今後が正念場だ。

富岳「4冠」の偉業

 富岳は年2回、6月と11月に発表されるスパコンの性能ランキングで2回連続4冠を取った。改めてこの偉業を振り返ってみよう。

 4冠のうち人工知能(AI)で使われる複数の精度の演算を組み合わせた性能を測る「HPL-AI」は2020年6月に始まった新しいベンチマークだ。現時点で1位を取ったのは富岳のみである。

 それを除いた3冠で見ても、全てを同時に取ったスパコンはない。唯一、先代のスパコンである京は、同時ではないものの3つそれぞれで1位を取ったことがある。中でもグラフ処理の性能を測るGraph500のベンチマークでは、撤去間近の2019年6月まで1位を続けた。最も有名なTOP500(連立一次方程式を解くLINPACKで計測)では20位にまで落ちていたが、メモリーやネットワークを含めた総合性能の優秀さが裏付けられた。また、富岳は2020年11月の結果では、どのベンチマークでも2位以下に3倍以上という圧倒的な差を付けた。

スパコンの各種性能ランキング1位の推移。網掛けは日本のスパコン
スパコンの各種性能ランキング1位の推移。網掛けは日本のスパコン

 このように、様々な種類のベンチマークテストでオールラウンドな性能を発揮できるのが富岳の大きな特徴であり、京の特徴でもあった。なぜか。