全3738文字
PR

 爪水虫などの治療薬に睡眠導入剤成分が混入し、200人超に健康被害が発生――。前代未聞の品質問題を起こしたジェネリック医薬品メーカーの小林化工(福井県あわら市)は2021年2月9日、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に基づき過去最長となる116日の業務停止命令処分を受けた。

 本件では、小林化工の治療薬であるイトラコナゾール錠50「MEEK」の製造過程において、本来の原料ではない睡眠導入剤成分が混入。その後の調査で、本来の原料と取り間違えていたことや、2人で確認しながらすべき作業を1人で実施していたことが分かった。さらに、同社では40年以上前から検査データをねつ造していたことや、約8割の製品で虚偽の製造記録を作成していたことも判明。ずさんな管理の実態が浮き彫りになった。

(出所:Graphs/PIXTA)
(出所:Graphs/PIXTA)

 医薬品の製造管理や品質管理に関する基準の「GMP(Good Manufacturing Practice)」準拠をうたう小林化工で、なぜこのような品質事故が起きたのか。その真因を探ることは、医薬品業界にとどまらず、品質問題が相次ぐ製造業全般に大きな教訓をもたらす。

 そこで本稿では、本件から何を学び、どうアクションを起こすべきかについて、米食品医薬品局(FDA)の査察対応のために多くの企業で規制順守の仕組み作りをサポートしている立場から解説する。

問題点の真因を探る

 本件を巡っては、規制当局が同社に立ち入り調査を行った。その調査結果を受けた日本経済新聞電子版の報道では、主な問題点として以下の5つを挙げている。この5つについて真因を探り出し、対策を提言する。

(1)2人で作業に当たるべき原料の取り出しを1人で実施
(2)製造手順を逸脱した原料の継ぎ足し
(3)立ち入り調査用に虚偽の記録を作成
(4)品質検査の結果をねつ造
(5)経営陣が法令違反を黙認

(1)2人で作業に当たるべき原料の取り出しを1人で実施
 本件の発端は、作業員が睡眠導入剤を間違って取り出してしまったことだ。2人作業の目的は、こうした取り間違いが起こらないようにダブルチェックをすることにある。しかし、人による間違いは偽装されると予防できない。

 そこで、重要な作業については実施時にバーコードなどを読み取り、間違えるとエラー表示したり、履歴を自動的に記録したりするとよい。小林化工においてこれができていなかった真因は、「工程を設計する」というプロセス自体がなかったからだろう。このプロセスがあれば、工程設計時にプロセスFMEA(故障モード影響解析)によってリスクを抽出し、リスクの大きさに応じたシステム化の投資ができたのではないか。

 もはや人が指さしやダブルチェックをする時代ではない。ISOのマネジメントシステム規格には工程設計も含まれるが、実際には工程設計プロセスがない会社がほとんどだ。このプロセスがあれば設計レビューやフェーズレビューでチェックに引っかかったはずである。

 当初、小林化工代表取締役社長の小林広幸氏は記者会見で本件の原因について「教育に問題がある」と釈明し、社員の問題として片付けようとしていた。筆者は、耳も目も疑った。社員のミスでこんなことになったという苦渋の表情が同氏からはありありと見て取れたからだ。

 筆者が企業をコンサルティングしていると、不具合の原因や再発防止策などを記載する是正シートに、お決まりのように「作業員が手順書通りに行わなかったのが原因であり、教育をやり直した」などと書かれているのを見かける。だが、よく調べてみると、上長が訓練を実施していないケースがほとんどだ。

 ISOのマネジメントシステム規格では、担当者への力量付与の要件として、力量を付与・維持する訓練を必須としている。訓練未実施の原因は上司にあり、経営者は教育・訓練をリソースの一部としてマネジメントレビューで把握していなければならない。ISO的にいうと、本件の原因については「教育・訓練のリソースに責任を持つ私の責任でした」と釈明すべきだった。

 筆者の経験上、法を順守したQMS(品質マネジメントシステム)を築き上げると、すぐに力量のないマネジャーが「改善」という名の下にプロセスを壊し、改悪しようとする。多くの企業は、QMSがうまく機能しないのは社員の問題と考えて教育・訓練を充実させようとするが、それは間違いだ。

 まずは、トップをはじめ経営層やマネジャー層から教育・訓練を行うべきである。特に人事異動で昇格、あるいは異動となったマネジャーには教育・訓練を実施し、力量を付与してからマネジメントに当たらせなければならない。