植物由来の繊維強化プラスチックの引き合いが好調──。パナソニックが、セルロース繊維の含有率を70質量%まで高めたプラスチックの注目度の高さに驚いている。プラスチックの使用量の削減やカーボンニュートラル(炭素中立)を重視する潜在顧客からの引き合いが増えているのだ(図1)。「ある潜在顧客からは『木材の廃材を7割も使って造ったものなら、ほぼ木そのもの。それでいて自由な形状に造形できるのであれば、さまざまな可能性が広がる』と好評だった」と、マニュファクチャリングイノベーション本部マニュファクチャリングソリューションセンター材料・デバイス技術部主任技師の浜辺理史氏は言う。
同社は、独自に開発したセルロース繊維強化プラスチックを、既にクリーナー(掃除機)の部品やタンブラー(コップ)で実用化している。セルロースナノファイバー(CNF)とは違ってnm(ナノメートル)級まで細かくしないため、同社は「ナノ」を省いて「セルロースファイバー」と呼ぶ。ただし、繊維の中心部の太さはμm(ミクロン)級ながら、両端はnm級まで細かく枝分かれした形状にするのが特徴だ。2019年にはセルロース繊維を55質量%含む材料を実用化しており、含有率をさらに高めた。
セルロース繊維は含有率を高めるほど強度が増す半面、成形しにくくなるという課題がある。「単に混ぜるだけなら85質量%程度まで含有率を増やせる」(浜辺氏)が、実製品の加工に利用するには成形性が不十分だった。含有率が高いほど溶融時の流動性が落ち、溶融材料が金型の隅々にまで行きわたりにくくなる。結果、ショートショット*1と呼ぶ成形不良が生じ、薄肉形状を造り(薄肉成形し)にくくなる。
この課題を見極め、パナソニックはセルロース繊維の含有率を70質量%まで高めたポリプロピレン(PP)との複合材料について、[1]流動性を高めて成形性を向上させた「高流動タイプ」と、[2]成形後の剛性を特に高めた「高剛性タイプ」の2種類を新たに開発した。
*1 ショートショット プラスチックの成形不良の1つ。成形品の一部にプラスチックの不完全な充てん部分が生じること。
[1]の高流動タイプでは、プラスチック成分(PP)の工夫により、厚さが1.3mmの薄肉製品の造形を可能にした(図2)。通常のプラスチックの流動性を上げるには温度を高めればよい。ところが、セルロース繊維強化プラスチックは温度を上げると焦げて変色してしまう。同社は詳細を明らかにしないが、「温度を上げずに流動性を確保するプラスチックの工夫と、プラスチックの流し方の条件」(同氏)によって実現したという。金型のゲートから薄肉部までの距離を近く設定するなどの方法を併用すれば、1.3mmよりも薄い製品の造形も可能とみている。