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「ベンダーには同情する」

 厚労省は富士通や医療機器販売のPHCなどの大手ベンダーに対して「見積もりの適正化」を依頼したほか、個別医療機関からの相談に対応していくと説明する。「見積もりを下げてほしいと言っているわけではなく、内訳を明確にするなどしてちゃんと医療機関が納得するように説明してほしいと依頼している」(厚労省医療介護連携政策課)。

 ただ、日本医師会でIT施策を担当する長島常任理事は、「ベンダーには同情する」と話す。医療機関のレセコンの導入率はほぼ100%近いものの、オンライン請求ネットワークで外部に接続するのは月1回の請求時のみという診療所も少なくない。マイナンバーカードの保険証としての利用には、まずはオンライン請求ネットワークの常時接続が必要となる。「これまで医療機関は外部とネットワーク接続しないのが常識だった。常時接続になると、今までと全く変わる。医療機関だけでなくベンダーにとっても未知の世界だ」(長島常任理事)。医療機関ごとに状況が異なるうえ、これまでにない改修やシステム構築では、実際にかかる費用を見極めにくい。安全を見て多めに見積もっているケースもあるとみられる。これらを一律に「適正化」するのは無理があるというわけだ。

 その上で長島常任理事は、「プレ運用があと3カ月や半年あれば、そこで出た課題をもとに、環境を整えられる。ベンダーがやることも見えてくる」として、プレ運用期間をより長くとるべきだと指摘する。

 厚労省の当初の計画では、2020年秋から医療機関のシステムを順次改修し、秋から冬にかけて医療機関で運用テストを行い、テスト後に順次運用を開始する予定だった。だが、厚労省が本格稼働前のプレ運用の参加機関を募集し始めたのは2021年1月末。約500機関を募ったものの、設備の導入などが遅れ、3月4日にプレ運用を開始したのは19機関にとどまった。

マイナンバーカードの普及が課題

 オンライン資格確認は、マイナンバーカードを保険証として利用できるだけでなく、オンライン請求ネットワークを介して、全国の医療機関などが連携する医療情報連携のプラットフォームとなる。患者自身も薬剤情報や健康情報などを閲覧できるようになる。長島常任理事は、「今後必要な仕組みだ」としながらも、「医療機関にとっては今すぐに導入するだけのメリットがあるものではない」と話す。

 厚労省はオンライン資格確認の医療機関側のメリットとして、患者の保険資格を正確に確認できるようになり、資格過誤によるレセプトの払い戻しが発生しにくくなるとする。ただ、厚労省が試算する医療機関や薬局の事務コスト削減効果は年間で約50億円と、全体からすればごくわずかにすぎない。今導入するだけのインセンティブにならないのが実情だ。

 「オンライン資格確認の普及には、何よりもマイナンバーカードの普及が第一だ」と長島常任理事は話す。マイナンバーカードの交付実施済み数は2月時点で人口の25.9%(有効申請受付数は人口比29.6%)。健康保険証としての利用申し込みをしているのは約270万件と、マイナンバーカード交付枚数のわずか8.2%だ。

 池端院長は「患者から『なぜここでは保険証としてマイナンバーカードを使えないのか』と言われるのが一番こたえる」と打ち明ける。それでも「まだマイナンバーカードが十分に普及していないので今すぐ導入するとならない」と指摘する。マイナンバーカード普及率が全国一の石川県加賀市近辺の医療機関では、「導入の機運が高い。患者のためになるなら医療機関は導入する」(ミタスの立石専務)という。

 「(医療者の間で)積極的に導入を進めていこうというムードが出来上がっていない。ベンダーの営業活動もあまりない。皆がもう少し様子見をする空気感になっている」と池端院長は言う。医療機関の中には、「いまは新型コロナ対策やワクチン接種でそれどころではない」という声もある。会員向けにオンライン資格確認の導入告知をしていない地域の医師会もあるという。

 2021年3月末の申請をもって医療機関などへの導入の全額補助が終了する。4月以降は病院などは半額補助、診療所などは4分の3補助となるが、全額補助が終了することで、導入の足かせになりかねない。厚労省がオンライン資格確認を本気で使えるようにしたいなら、まずはプレ運用期間と全額補助申請期間の延長が必要となりそうだ。