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 病気で苦しむ患者よりも利益を優先した──。薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に抵触し、富山県から業務停止命令を受けた日医工。第三者である法律事務所がまとめた調査報告書(以下、報告書)をひもとくと、国内最大手の後発医薬品(ジェネリック医薬品)*1メーカーが厳しい行政処分を受けた理由は、この一言に尽きる。

*1 後発医薬品(ジェネリック医薬品) 先発医薬品(新薬)の特許が切れた後に販売される同じ成分で安価な医薬品。日医工によれば、新薬よりも3割程度、場合によっては5割以上価格が低くなるという。
業務停止命令について謝罪する日医工のホームページ
業務停止命令について謝罪する日医工のホームページ
(出所:同社のWebページ)
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 富山県が同社に突きつけた処分は2つある。1つは、主力工場である富山第一工場(富山県滑川市)に対し、32日間(2021年3月5日~4月5日)にわたって医薬品製造業の業務を停止させること。もう1つは、日医工本体に関して24日間(同年3月5日~28日)、医薬品製造販売業の業務を停止させることだ。これらの処分について富山県は「過去の事例と比べても重い方だ」と説明する。

初の抜き打ち調査で発覚

 きっかけは、2020年2月下旬に医薬品医療機器総合機構(PMDA)と富山県が実施した富山第一工場への「無通告査察」(富山県)である。事前に通告せずに同工場に立ち入り調査を行ったところ、医薬品の製造管理と品質管理に関する基準(GMP:Good Manufacturing Practice)に関して違反(以下、GMP省令違反)の疑いが見つかった。その後、日医工自身や先述の法律事務所を含めた調査を実施した結果、GMP省令違反が発覚*2。この事態を受け、日医工は同年4月~2021年1月中旬までに75製品の自主回収を余儀なくされた上、さらに今回の業務停止処分が科せられた。

 なお、 PMDAと富山県が「日医工の富山第一工場に無通告査察を行ったのは、今回(2020年2月)が初めて」(富山県)。最初の査察でGMP省令違反が見つかったというわけだ。

*2 GMPは、厚生労働省令である「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(GMP省令)」が定める基準。GMP省令では、製造管理と品質管理、衛生管理の3つの基準書に加えて、製品基準書や逸脱管理手順書などを作ることを定めている。

 日医工が犯したGMP省令違反は大きく2つある。[1]不適正な廃棄回避と[2]安定性試験などの不実施――である。

GMP違反は「廃棄回避」と「試験の不実施」

 [1]の不適正な廃棄回避とは、出荷試験などで規格外試験結果となった製造ロット(以下、出荷試験不適合ロット)を、GMPが定める手順書に反して廃棄処分せずに出荷したことだ。少なくとも2011年から日医工はこれに手を染めていた。

不適正な廃棄回避と内容
不適正な廃棄回避と内容
4種類の手法があることが分かった。いずれもGMP省令違反に該当する。(作製:日経クロステック)
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 [2]の安定性試験などの不実施では、まず加速試験や長期保存試験を無断で省略。加えて、安定性試験などにおける不適合結果について、手順書にのっとった処理を怠った。同社はこれを2009年ごろには既に行っていた。

 日医工がこれらのGMP省令違反に手を染めた経緯はこうだ。

専務が工場長に指示し、工場長が部下に指示

 まず、[1]の不適正な廃棄回避では、「取締役/取締役専務執行役員(生産本部統括等担当)」が出荷試験不適合ロットについて廃棄を回避するように「工場長/生産本部長」に指示。これを受けて工場長/生産本部長は、課長級である「医薬品製造管理者(兼)逸脱管理責任者」に対し、同ロットの廃棄回避の指示を「明示または黙示」(報告書)的に行った。そして、医薬品製造管理者(兼)逸脱管理責任者は、自ら招集する「逸脱会議」において、手順書を無視して同ロットの廃棄を避けるための判断や決定などを主導した。

 [2]の安定性試験などの不実施では、品質管理部が試験に優先順位を付けてリスト化。加速試験や長期保存試験といった安定性試験を「出荷に必要とされる試験よりも劣後するもの」(報告書)と判断し、優先順位を下げた。すると、安定性試験は試験実施計画で後回しにされたり、そこから除外されたりした。結果、無通告査察が行われた2020年2月の時点では、大量の安定性試験が不実施という状態に陥っていた。

 安定性試験が不実施であることは、2013年6月から開催されている「工場品質委員会」により、品質管理部以外にも共有されていた。同委員会には「品質管理部長、工場長、副工場長、製剤の製造部長、製剤の包装部長、顆粒(かりゅう)剤包装部長、生産業務部長、生産企画部長、GMP 推進部長などの役職者が出席していた」(報告書)。加えて、内部監査室が実施した2019年3月期の内部監査報告書がこの問題を指摘したが、安定性試験の不実施が改められることはなかった。

 製薬会社にとってGMP省令は「必須条件」(日医工)であり、「順守しない企業には本来、医薬品を製造する資格はない」(PMDA)。にもかかわらず、なぜ日医工はこうしたGMP省令違反を犯したのか。