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 政府は自治体向けの「ワクチン接種記録システム(VRS)」で、マイナンバー法の例外規定を初めて適用しマイナンバーを利用する。異なる市区町村が住民らの接種履歴を迅速に把握するためだ。マイナンバー制度の今後の在り方に影響を与えそうだ。

 内閣官房の情報通信技術(IT)総合戦略室(以下IT室)は2021年2月に医療スタートアップのミラボと随意契約を結んでVRSを開発中だ。クラウドサービスを利用して2021年4月から自治体向けに提供する。新型コロナウイルスのワクチンは1回目の3週間後に2回目の接種が推奨されており、住民が他の自治体に転出した場合も自治体間で接種履歴を把握する必要がある。

 マイナンバー法は行政機関や自治体がマイナンバーを含む個人情報(特定個人情報)の「利用」や「提供」ができる事務手続きを限定列挙している。市区町村が予防接種の記録にマイナンバーを利用することについてはマイナンバー法に規定がある。VRSに保存した特定個人情報を他の自治体へ「提供」する際に例外規定を初適用する。

接種履歴の確認は高い緊急性が認められる

 市区町村は2021年4月までにそれぞれが保有する住民基本台帳や予防接種台帳のシステムから接種対象者の氏名やマイナンバーなどをCSVファイル形式で抽出し、VRSに保存する必要がある。抽出作業に必要となるベンダーの費用は政府が支援する。住民が接種会場などでマイナンバーを伝えたりマイナンバーカードを持参したりする必要はない。

埼玉県戸田市が独自に用意したワクチン接種記録システムのデモ
埼玉県戸田市が独自に用意したワクチン接種記録システムのデモ
(撮影:日経クロステック)
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 市区町村がマイナンバーを含む個人情報を他の自治体に提供するには法的根拠が必要だ。そこで政府は「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合において、本人の同意があり、又は本人の同意を得ることが困難であるとき」というマイナンバー法の例外規定を初めて適用する。

 この例外規定は、事故で意識不明の状態における治療など緊急事態の際にマイナンバーを含む個人情報の提供を認めるものだ。一部の自治体関係者からは、自治体コードなどと接種券番号を組み合わせれば全国で一意の識別子に使えるとして、「マイナンバー不要論」も出ていた。しかし政府関係者は「こういう時こそ(マイナンバーを)使えないといけない」とマイナンバーの利用意義を強調する。

 IT室などは自治体にVRSへの理解や協力を求めた2021年3月5日の文書で、「接種履歴の確認について高い緊急性が認められることから、他の市区町村への特定個人情報の提供が許容される」と説明した。住民が転出した先の市区町村は本人の同意を得て迅速に接種履歴を照会できる。

 各市区町村はVRSシステム内の論理的に区分されたそれぞれの領域で住民の個人情報を管理する。政府はシステムを提供するだけで、誰が接種したかといった個人情報にはアクセスできない。接種件数などの統計情報のみ把握できる。

「機関別符号」使わず特定個人情報を提供

 自治体には従来と異なるマイナンバーの利用方法に懸念もあるようだ。全国知事会は2021年2月27日にまとめた緊急提言で、「従来のマイナンバーに関する取り扱いと相反する仕組みに疑義を示す意見が多く寄せられている」と指摘した。VRSはマイナンバーを利用する従来の仕組みと大きく異なるためだ。