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 量子的な振る舞いを活用して、組み合わせ最適化問題を短時間に解くコンピューター(以下、量子アニーリングマシン)。カナダD-Wave Systemsなど複数の企業が実用化しているものの、使いやすいとは言い難い。量子アニーリングマシンを使う際には、解きたい問題をイジングモデル(詳細は後述)として定義する必要があるが、そこで躓いて(つまずいて)実務で活用できないケースが少なくないのだ。この問題を解決すべく最適なイジングモデルを開発するためのSDK(Software Development Kit)「Fixstars Amplify SDK」(以下、Amplify SDK)の提供をフィックスターズが始めた(ニュースリリース)。同社は3年前からD-Waveの量子アニーリングマシン活用のコンサルティング事業を続けており、同事業向けに開発・利用してきたSDKを広く一般に開放する。このSDKはD-Waveをはじめ5社の量子アニーリングマシンに対応可能である。

Amplify SDKは、量子アニーリングマシンを実行するための、フィックスターズのクラウドサービス「Fixstars Amplify」に向けたSDKである
Amplify SDKは、量子アニーリングマシンを実行するための、フィックスターズのクラウドサービス「Fixstars Amplify」に向けたSDKである
Amplify SDKを使うと、Fixstars Amplifyがサポートする量子アニーリングマシンで稼働するイジングモデルのコードが容易に開発できる。現在、フィックスターズの量子アニーリングマシン「Amplify AE(Annealing Engine)」など、5社の量子アニーリングマシンがサポートされている。(出所:フィックスターズ)
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 量子コンピューターには量子ゲート型と量子アニーリング型の2種類があるといわれている。前者の応用範囲は広いが、実務に使えるレベルになるのは相当先である。一方、後者は、組み合わせ最適化問題に特化しているものの、すでに実用化されており、実証実験で期待したような成果が得られたとの報告が相次いでいる。

組み合わせ最適化問題とは
組み合わせ最適化問題とは
(出所:フィックスターズ)
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 例えば、デンソーは工場での複数の無人搬送車(AGV)の制御にD-Waveの量子アニーリングマシンを適用する実証実験を行った。AGVの停止時間を15%短縮し、配送効率の向上を確認したという(D-Waveの関連資料)。また、日立製作所は、同社が開発した量子アニーリングマシンのシミュレーター(同社は「CMOSアニーリング」と呼ぶ)を、三井住友フィナンシャルグループのコールセンターの勤務シフト作成に適用する実証実験を行ったところ、余剰配置の発生を80%削減できた。このCMOSアニーリングを使った勤務シフト作成システム「勤務シフト最適化ソリューション」の事業化を2020年10月に開始した(ニュースリリース)。

 ただし量子アニーリングマシンの実現技術はさまざまである。D-Waveの量子アニーリングマシンは、極低温で動作する、独自の超伝導回路をベースにする。一方、日立のCMOSアニーリングは一般的な(古典的な)コンピューター上で稼働する。この記事では量子的な振る舞いを活用して、組み合わせ最適化問題を短時間に解くコンピューターやそのシミュレーターを、量子アニーリングマシンと呼ぶ。組み合わせ最適化問題は、すべての組み合わせを評価しないと最適化な解が見つけられない難しい問題(NP完全問題)である。量子的な振る舞いを活用すると、多数の解の候補を同時に評価していると見なせるため、量子アニーリングマシンは古典的なコンピューター上の従来型のアルゴリズムよりも短時間で最適解を見つけられる。