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 補聴器の開発と販売を手掛けるデンマークOticon(オーティコン)の日本法人は、人工知能(AI)を搭載した補聴器「Oticon More」の日本での販売を2021年2月26日に始めた。AIの一種であるディープニューラルネットワーク(DNN)を補聴器に初めて搭載しており、深層学習を用いることで、より自然に周囲の音を利用者に届けるとする。

ディープニューラルネットワーク(DNN)を搭載した補聴器
ディープニューラルネットワーク(DNN)を搭載した補聴器
(出所:オーティコン補聴器)
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 従来の多くの補聴器は、騒音のある環境で会話を聞き取りやすくするため、正面の人の声以外をなるべく拾わないようにしている。その結果、「静かな場所で2人だけで話すときは違和感を覚えにくいが、例えば屋外や大勢の人がいる場所では不自然な聞こえ方に感じることがある。利用者が見ている風景と聞こえる音にギャップが生じるためだ」(オーティコン補聴器の広報担当者)。

 オーティコンは2016年に、正面だけでなく360度の方向から集音するAI補聴器を開発し販売を始めた。さらに今回、補聴器に入ってくる膨大な音の中から、音声と背景音をより精密に処理するためにDNNを応用した。360度から集まったそれぞれの音についてDNNが分析し、際立たせる音声と抑制する音を細やかに瞬時に判断する。

 「2016年に販売した補聴器では、研究者が立てた仮説や数学的な理論に基づき、音声を際立たせたり背景音を抑制したりしていた」とオーティコン補聴器プロダクトマネージメント部の部長である渋谷桂子氏は話す。今回の製品では、DNNによるアルゴリズムを構築するため1200万の現実世界の音を学習させた。学習データを基にしたアルゴリズムが、音声の強調と背景音の抑制を細かく実行することで、周囲の音を含めてバランスよく自然に聞こえるという。

2019年発売の一世代前の補聴器(左)と今回のDNN搭載の補聴器(右)による音の信号処理を比較した図
2019年発売の一世代前の補聴器(左)と今回のDNN搭載の補聴器(右)による音の信号処理を比較した図
1.4秒間デンマーク語で「左、右」と発話したときの様子。赤色は弱まっている背景音で、青色は際立っている音声を示す。DNNを活用することで音のコントラストが明確になる。(出所:オーティコン補聴器)
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 変化する音を瞬時にDNNで解析するには高い演算能力を持つ分析用のチップが必要になる。オーティコンは補聴器専用チップを自社開発しており、今回はメモリーの容量を従来の16倍に、処理速度を従来の2倍に高めた。「刻一刻と変化する360度から集まる音を対象に、音の信号処理をより精密にできるようになった」とオーティコン補聴器のアドバンスト・オーディオロジー・センター シニアトレーナーの高橋礼美氏は話す。