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 半導体部品を中心に主要部品まで自分たちで設計する「自前主義」の米Apple(アップル)が、いよいよ機器だけでなく、5G(第5世代移動通信システム)の主要部品まで自ら手掛けていることが分かった。米国版「iPhone 12」シリーズが採用するミリ波帯の5G通信用のアンテナ内部を日経クロステックが分析したところ、汎用品ではなく独自のカスタム品を搭載していることが判明した。Appleは、2010年6月に発売した「iPhone 4」で、アンテナの受信感度が低下する問題を起こし、対処に追われた苦い経験がある注1)。同社として初めて5G通信に対応したiPhone 12シリーズで同じ轍(てつ)を踏まぬよう、カスタム品の採用に踏み切ったとみられる。

注1)iPhone 4では、きょう体の左下側面に触れると通信の受信感度が著しく低下する問題が発生。発売から間もなく、当時のCEOだったSteve Jobs氏が会見を開いて釈明・謝罪し、対応策として受信感度低下を防止するための専用ケースを配布した。翌11年に発売した「iPhone 4s」では、この問題を解決した。

 米国版iPhone 12シリーズは、28GHz帯と39GHz帯という2種類のミリ波帯5G通信に対応する。対応エリアは限られるものの、米Verizon(ベライゾン)が米国内でミリ波帯の5G通信サービスを積極的に提供しているからである。

 幅広い帯域を活用できることで高速通信可能なミリ波帯5G通信だが、直進性が強く、電波が隅々まで届きにくいという難しさもある。日経クロステックは、ミリ波に対応した米国版「iPhone 12 Pro Max」を入手。分解したところ、5G通信用の半導体部品は米Qualcomm(クアルコム)製である一方、アンテナモジュールは、ミリ波帯アンテナモジュールとして一般的なQualcommの汎用品(「QTM535」など)ではなく、独自のカスタム品を採用していることが分かった。扱いが難しいミリ波帯の電波をつながりやすくするための工夫とみられる。

 iPhone 12 Pro Maxのミリ波帯のアンテナモジュールは全部で3つあった。前面と背面、側面と、それぞれ異なる方向から電波(電磁波)を送受信できるようにしている(図1)。このうち前面側、ならびに背面側を向いているアンテナモジュールはいずれも外観からQualcommの汎用品と大きく異なる。残りの側面側にあるアンテナモジュールは、外観は似ているもののQualcommの汎用品と比べてやや小さかった。

図1 米国版の「iPhone 12 Pro Max」の内部
図1 米国版の「iPhone 12 Pro Max」の内部
ミリ波帯のアンテナモジュールは全部で3つあった。(撮影:日経クロステック)
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 QualcommのQTM535は、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)が2020年8月に発売したスマートフォン「Galaxy Note20 Ultra」などに一般的に採用されている。今回の比較では、米国版のGalaxy Note20 Ultra が搭載するQTM535を測定した。同製品の側面アンテナモジュールのコネクター部を除いた外形寸法は、長さ約17.7mm×幅約4.2mm×高さ約2.0mm。これに対してAppleの側面アンテナモジュールは、長さ約16.9mm×幅約3.8mm×高さ約1.9mmだった(図2)。

図2 左側がAppleの側面アンテナモジュールで、右側がQualcommのQTM535
図2 左側がAppleの側面アンテナモジュールで、右側がQualcommのQTM535
(図:日経クロステック)
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