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 エンジンルーム内の部品などに使うポリアミド(PA)樹脂の供給不足が再燃している。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大や、2021年2月に米国南部を襲った記録的な寒波などが原因である。供給不足は長期化する可能性が大きい。同樹脂製の部品を作る自動車部品メーカーの中からは、代替樹脂の調達を検討するなどの動きが出てきた。

 PA樹脂の不足問題は19年に世界で顕在化し、その後、小康状態を保っていたが、21年1月以降に再加速した。オランダ化学大手Royal DSMの日本法人であるDSMエンジニアリングマテリアルズ(DSMジャパン)でコマーシャルディレクターを務める高雄良平氏は、「その背景にはPA樹脂原料の不足、PA樹脂の需要回復、米国南部を襲った大寒波、船便などで使うコンテナ不足といった問題がある」と指摘する(図1)。

高雄良平氏
図1  DSMエンジニアリングマテリアルズの高雄良平氏
「PA樹脂の不足問題は長期化する可能性が大きい」と言う。(出所:DSMジャパン)
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 吸気マニホールドなどのエンジン部品に使われるPA樹脂は、「ヘキサメチレンジアミン(HMDA)」に「アジピン酸」などを重合して作る。このうちHMDAの原料となる「アジポニトリル(ADN)」の供給メーカーは、米Ascend(アセンド)やフランスSolvay(ソルベイ)など世界に数社しかない。そのため、以前からHMDAは不足気味であり、19年に顕在化したPA樹脂の不足問題は、この原料(ADN)不足が大きな要因だった(図2)。

主なPA樹脂の作り方
図2 主なPA樹脂の作り方
HMDAにアジピン酸などを重合することで、複数のPA樹脂を作り分ける。(出所:DSMジャパン)
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 こうした状況の中、20年2月以降の新型コロナの世界的な感染拡大によって、世界の自動車市場は縮小した。市場の縮小を受けて自動車メーカー各社は、車両の生産量を減らした。その結果、PA樹脂の需要も減少し、同樹脂の不足問題は沈静化したようにみえた。

 ところが20年後半から、中国や米国などで自動車市場が回復したことで、PA樹脂製部品の需要も回復する。ここに、米国南部の寒波による大規模停電が追い打ちをかけた。停電によって、テキサス州にあるHMDAメーカーの工場が停止した。さらに、輸送用のコンテナが不足し、米国からのHMDAの出荷が滞った。こうした複数の要因が重なり、PA樹脂の不足問題が再燃した。