全3203文字
PR

 「顧客である自動車メーカーは、一体、何をしていたのかと言いたいだろう」──。⼯場運営に詳しいコンサルタント(以下、専門家)への取材により、ルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)の事業継続計画(BCP)対応の甘さが浮き彫りになった。同社の那珂(なか)工場(茨城県ひたちなか市)が火災で稼働を停止し、再開までに1カ月を要すると見込まれる生産危機に追い込まれた件について、専門家は厳しい評価を下す。「顧客からの信頼を回復するために、ルネサスはBCPの策定を改めて見直す必要がある」(同専門家)。

焼損しためっき装置のセル部分
[画像のクリックで拡大表示]
焼損しためっき装置のセル部分
(ルネサスの資料を基に日経クロステックが作成)

 出火元は、めっき装置の樹脂系部材。電流が流れたままの状態でアノード(陽極)につながる配線が切れて発火し、その周囲の樹脂系部材に引火して火炎が広がったというのが消防の見立てだ。だが、これは火災の直接原因であって真因(問題を引き起こす本当の原因)とはいえない。製造業でめっき工程を扱った経験を持つこの専門家が指摘する真因は、「技術伝承の不備」だ。

火災現場の様子
[画像のクリックで拡大表示]
火災現場の様子
場所は、直径300mmの半導体ウエハーの生産ラインを設置したN3棟1階のクリーンルーム。生産設備が焼損しているほか、搬送装置のレールが焼けて曲がって床に落下している。天井にもすすが付着して汚れていることが分かる。(出所:ルネサス)

外注には覚悟が必要

 生産設備に関して、企業は「Make(内製)かBuy(外注)か」の判断を行う。この判断自体に優劣はない。ただし、外注の場合は注意が必要だ。生産設備を内製すると自然に社内にたまっていく技術的な知識やノウハウ(以下、技術ノウハウ)が、外注では簡単に得られないからである。従って、外注を選択する場合は、「安全性を含めて、その生産設備に関する技術ノウハウを自社で持たなくてもよいという明確な判断、もしくは覚悟が必要となる。その覚悟がない場合は、内製しないまでも自社でその生産設備に関する技術ノウハウを維持しなければならない。これがBuyにおいて押さえるべき『本質』である」(同専門家)。

 つまり、生産設備を外注するケースでも、重要なものや付加価値の高いものについては設備メーカーに丸投げしてはならないということだ。自社で技術ノウハウを手に入れた上で、それをしっかりと社内で伝えていく必要がある。そうしなければ、安全性や性能に関する設備メーカーの技術的な説明が妥当か否かを判断できず、相手の言うことを鵜呑み(うのみ)にするしかなくなってしまう。

 数多い生産設備のありとあらゆる技術ノウハウを社内に保有しておくのは、コストや負担が大きすぎるという企業や生産現場もあるだろう。その場合には、例えば「選択と集中」を採る方法がある。
[1]全技術ノウハウのうち、特に重要な部分に絞る
[2]付加価値の高い生産設備の技術ノウハウに限定する
[3]調達時間が長かったりカスタマイズしていたりして、代替しにくい生産設備の技術ノウハウに絞り込む
といった具合だ。逆に言えば、付加価値の低い生産設備や代替可能な生産設備の技術ノウハウは、「戦略的に持たない」または「あえて捨てる」という考えで経営リソースを節減するということになる。

めっき装置の外観とセル部分
[画像のクリックで拡大表示]
めっき装置の外観とセル部分
(出所:ルネサス)

 ルネサスは、焼損した11台の生産設備のうち4台については代替が難しく、新たに調達しない限り生産を再開できない半導体製品があると説明する。同社が「1カ月での生産再開を目指す」というのは、これら4台の調達期間を1カ月と見込んでいるからだと、同社は2021年3月21日に開いた説明会(以下、会見)で明らかにしている。

* いずれも銅(Cu)配線向けの装置で、チップ上の再配線に使うとルネサスは説明する。なお、焼損した台数については、2021年3月29日に日本経済新聞などが「17台前後」に増えたと報じている。

 果たしてルネサスは、生産設備を外注する際の本質をきちんと押さえていたのだろうか。