アマゾンの密林、渋谷駅前の交差点――。わざわざロケに行ったり、交通整理などをしたりしなくても、その場にいるように撮影ができる。そんな場所が東京・目黒のビルの中にある。ソニーPCL本社の研究開発スペースだ。大掛かりな撮影セットは使用しない。壁に大型のディスプレーや照明装置が並ぶだけだ。そんな“秘密基地”が、映画撮影の常識を覆そうとしている。
この研究開発スペースで使われているのは「バーチャルプロダクション」という映像撮影手法である。演者が立つステージの奥にマイクロLEDを用いたソニーの大画面ディスプレー「Crystal LEDディスプレイシステム」を配置してCGを背景表示する。このCGをカメラの視点(位置やズーム)によって変化させることで、映像ではあたかもリアルの場で撮影しているように見えるのだ。見ている人の目の位置をトラッキングすることで3D映像を提示するディスプレーがあるが、そのカメラ版といえる。
バーチャルプロダクションを用いることで、これまで映画撮影につきものだった場所と時間の制約から解放されるようになる。まずは場所。映画の舞台となる場所に行かなくても撮影できるようになる。しかも、手間のかかる物理的な背景のセットを作らなくてもよい。
例えば、取材では仙台空港での映像制作を例にしたデモがあった。演者が座るベンチだけが実物で、それ以外の壁や手すり、窓の外の景色はすべてCG映像だ。しかし、撮影された映像を見ると、手すりなども含めて実写にしか見えない出来栄えであった。