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 2019年6月、横浜市内を走る無人自動運転の鉄道路線「金沢シーサイドライン」で列車の逆走事故が発生した。信号線の断線によって制御装置に進行方向が正しく伝わらなかったのが直接の原因だった。なぜフェールセーフが機能しなかったのか、どうすれば再発は防げるのか。前編では事故概要と原因を解説した。後編では、鉄道事故に詳しい佐藤R&Dの佐藤国仁氏が再発防止策を考察する。

 運輸安全委員会の報告書では、事故の再発防止策として、[1]断線の防止[2]逆走の防止[3]車両設計における設計体制の確立を提案している1)。確かに、[1][2]によって信号線の断線による意図しない逆走は防げる。しかし[3]の設計体制は総花的な指摘にとどまっており、事故調査報告として具体性に乏しいといわざるを得ない。

総花的対策では事故は防げない

 報告書は「安全性の検証のフェーズ」で「システム全体が十分に安全性を確保しているか」を網羅的に確認する必要があるとして、そのためにはFTAやFMEAを活用すべきだと提案している。しかし、これは一般的な教科書レベルの提案で、十分な再発防止策とはいい難い。

 筆者が再発防止策を「十分でない」と考える理由は、まず報告書が「意図しない逆走」によって事故が起こったと捉えている点。そして、その原因を[A]F線の断線、[B]F線が断線した状態で車上ATO装置、力行(りきこう)指令、モーター制御装置のメモリー機能の不整合を検知できなかった、と整理しているからだ。

 直接の原因はF線の断線には違いない。だが、本質的な問題はモーター制御装置のメモリー機能がフェールセーフの原則に明確に反している点にある。方向指令線が2本(F・R線)あるのは冗長化、つまりはフェールセーフのため。従って2本とも印加・無印加の状態は「異常」と判断すべきなのは、機械安全のイロハだ。報告書によると、メモリー機能は有人の普通鉄道車両で回生ブレーキ動作時などの例外的運転のために使われているようだが、その例外への対処が不適切だった。

 ただし、そうした不具合があったとしても、逆走はインシデントにとどまる。最終的には「過走防護信号区間」〔列車が進入すると過走(オーバーラン)と判断してブレーキを作動させる区間〕からの逸脱があった時点で、その逸脱を検出して非常ブレーキを作動させなかったことを事故の原因と定めるべきだ。

 すなわち「意図しない逆走」を事故原因と見なすのではなく、「進入が認められていない区間への進入」時に制動がかけられなかった事態を事故原因とすべきだろう。結論から言うと、位置検出用の車上アンテナを活用し、過走防護信号区間からの逸脱を認識できるようにして事故を防ぐべきだと筆者は考える。

日比谷線脱線事故に見る再発防止策

 過去には見事な再発防止策を提案した報告書の例がある。運輸安全委員会の前身に当たる事故調査検討会が、2000年10月26日に公表した「帝都高速度交通営団 日比谷線中目黒駅構内 列車脱線衝突事故に関する調査報告書」である。

 事故調査の結果、レールへの乗り上がり脱線という原因が特定されたが、これは鉄道工学的には多分に確率的な要因に基づく事象であり、確定的な対策が困難な事故原因だった。この困難にもかかわらず、日比谷線事故の報告書では再発防止策として次の5つを提案した。[1]静止輪重管理、[2]軌道の平面性などの管理、[3]レール研削における断面形状、[4]車輪のフランジ角度の変更、[5]脱線防止ガードの設置基準、である。特に[5]については「推定脱線係数比」という新しい評価基準を創出し、明確な基準を示した(図1)。

図1 推定脱線係数比の算出
図1 推定脱線係数比の算出
同係数比が1未満の場合は低速域における脱線に対する余裕度が小さいことから、脱線防止ガードの設置が必要と考えられる。1.0以上1.2未満は、低速域における脱線に対する余裕度は大きいものの不確定性を見込んで脱線防止ガードを設置する。1.2以上なら低速域における脱線に対する余裕度が十分大きく脱線防止ガードの設置が必ずしも必要ではないと考えられる。(出所:国土交通省)