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 電気自動車(EV)メーカーの代表格として何かと話題の多い米Tesla(テスラ)。そんな同社の足元を支えるかのように、現行全車種にタイヤを供給するのがフランスMichelin(ミシュラン)だ(図1)。各EVに合わせたタイヤ設計で信頼を獲得。二酸化炭素(CO2)の排出と吸収を同じにする「カーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ)」を目指す機運が高まる中、新たな環境配慮型タイヤの開発にも取り組む。同社EVタイヤ開発の秘訣に迫る。

図1 MichelinはTeslaの現行全車種に専用設計したタイヤを供給する
図1 MichelinはTeslaの現行全車種に専用設計したタイヤを供給する
写真は小型SUV(多目的スポーツ車)「モデルY」。(出所:Tesla)
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 MichelinがTeslaに供給するタイヤは、旗艦セダン「モデルS」、小型車「モデル3」、大型SUV(多目的スポーツ車)「モデルX」、小型SUV「モデルY」向けである。「EV専用タイヤ」とは銘打っていないが、各車種の性能を最大限発揮できるように材料や接地面(トレッド)を専用で設計している。

 自動車メーカーは各車種で3社以上からタイヤを分散調達することが多い。タイヤ工場の稼働停止といった供給リスクに対応しやすく、各タイヤメーカー間での価格競争を促せるからだ。Teslaには、米Goodyear(グッドイヤー)やドイツContinental(コンチネンタル)、イタリアPirelli(ピレリ)なども食い込んでいるが、全車種で一定割合を握るMichelinはTeslaから高い信頼を得ているとみて間違いない。

 Teslaの存在感は世界で高まっている。米国時間2021年4月2日に発表した同年1~3月のEV世界販売台数は四半期で過去最高を更新した。前年同期比2.1倍の18万4800台を記録し、特に中国・上海工場などで生産するモデル3や、モデルYが販売台数を伸ばした。中国はEVや燃料電池車(FCV)など新エネルギー車の年間販売台数が136万台に上る世界最大の市場であり、Teslaはもちろん、タイヤを納めるMichelinにとっても最重要市場といえる。

 Michelinは既に現地の他社EVにもタイヤ供給を広げている。例えば、中国・小鵬汽車(Xpeng Motors)の「G3」「P7」や、スウェーデンVolvo(ボルボ)系の高級EV「Polestar 2」に供給する。また、中国・広州汽車の「Aion S」「Aion LX」に加え、日系メーカーが中国合弁企業と開発したEV数車種への供給実績もある。

EVはタイヤの役割大きく

 Teslaをはじめ多くのEVメーカー間でのシェア争いが過熱する中国市場。そんな同市場が求めるタイヤ性能について、日本ミシュランタイヤ(東京・新宿)の多比良峻氏は「タイヤに対する要求性能値はEVもガソリン車も大差はない。ただ、EVの特性を考慮すると性能値の達成で難しい面は多い」と語る(図2)。多比良氏は同社研究開発本部タイヤ性能研究実験部シニアエンジニア。中国での駐在経験があり、現地のEVタイヤ開発に詳しい。

図2 日本ミシュランタイヤの多比良峻氏
図2 日本ミシュランタイヤの多比良峻氏
同社研究開発本部タイヤ性能研究実験部シニアエンジニア。EVタイヤ開発に詳しい。(撮影:日経クロステック)
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 同氏が挙げるEV特有の難しさは大きく4つ。[1]航続距離、[2]静粛性、[3]車両質量、[4]加速性能――に起因するものだ。例えば、1充電当たりの航続距離、いわゆるEV電費は最大の競争軸といえる。EV電費を高めるためには、タイヤの転がり抵抗値のさらなる低減は欠かせない。

 また、モーター駆動のEVは走行音が小さい半面、乗員はタイヤ由来のロードノイズやパターンノイズを感じやすい。タイヤは車両に装着して最終的な性能を評価するため、他部品が静かなら、タイヤが担う騒音削減の役割はおのずと大きくなる。

 さらに、大容量の車載電池を積むEVは、低重心かつ車両質量が大きくなる。タイヤが支える荷重が大きく、モーター駆動による高トルクでの加速性能の高さも相まって接地面が摩耗しやすい。摩耗対策にはゴム材料を硬くするのが1つの手だが、それでは転がり抵抗値を下げにくい。航続距離の延長が難しくなる。

自動車メーカーの“相談役”に

 「タイヤの各性能は背反の関係にあることが多く、すべてを同時に高めるには多くのハードルを乗り越えなくてはならない」(多比良氏)。では、MichelinはどうやってEVタイヤを開発しているのか。

 同社が活用するのは、1889年の創業以来蓄積してきた膨大な量のタイヤデータである。あらゆる車格向けのタイヤを開発した経験から、EVに必要なタイヤの特性を予測。走行性能を最大限高められるタイヤを自動車メーカーに提案しているとする。