全2221文字
PR

 政府の個人情報保護委員会は、本人の同意がなくても個人情報を活用できる範囲を、企業の一部の研究開発活動にも拡大する。製薬企業や医療機器メーカーによる個人の診療データ活用に加え、企業と学術機関の公益性がある共同研究などを想定して、2021年夏をめどにガイドライン(名称未定)を公表する方針だ。

 個人情報保護委員会はガイドラインで、個人情報を使って学習したAI(人工知能)エンジンの認識結果や出力結果が個人情報に当たらない範囲なども明示する方針だ。一部の研究開発目的での規制緩和に加えて、AIで個人データを活用するうえで適法となる運用方法が分かりやすくなる。これまで厳格な運用を守ってきた個人情報のビジネス活用において、動きのある制度整備となりそうだ。

個人情報保護委員会が新ガイドラインで明確にする、本人同意が不要な例外分野
個人情報保護委員会が新ガイドラインで明確にする、本人同意が不要な例外分野
(出所:個人情報保護委員会)
[画像のクリックで拡大表示]

 ただし、個人情報保護委員会が今回検討する「例外」は、従来とかなり性格が異なる。これまでの例外は、患者の命に関わる医療現場や犯罪捜査、防災活動など、国民の生命や財産に関わる緊急性が高いシーンにおける利用にほぼ限定されてきた。

 今回のガイドラインにおいて、製薬や学術研究だからといって本人同意の例外が全面的に認められるとは考えにくい。専門家からも例外の範囲は慎重に運用すべきという指摘が出ており、利用範囲や使い方は限定されると想定される。

 例外の拡大は個人や企業活動に及ぼす影響が大きい。個人情報保護委員会には今後、ガイドラインの根拠や作成プロセスをどう開示していくかという透明さが求められそうだ。

個人ごとの診療履歴データを活用できる可能性

 医療分野などで本人同意の例外を明確にする方針は、個人情報保護法の3年ごとの制度見直しにのっとって個人情報保護委員会が2019年12月に公表した「制度改正大綱」で初めて示された。1年あまりすぎた2021年1月26日、個人情報保護委員会が改めて同方針を取り上げ、事務局が2021年夏ごろまでの公表に向けてガイドライン作成に着手した。

 ガイドラインで第1に想定するのは、医療(公衆衛生)分野で認める例外だ。具体的には、製薬企業や医療機器メーカーが複数の医療機関から個人の診療データ提供を受けるケースのほか、製薬企業などが自ら同意を得て集めた個人データを、同意が得られた目的外で利用するケースなどを想定する。

 医療機関が持つ診療データは通常、外部への提供を想定していない。ガイドラインでは本人の同意なく診療データを外部提供できる範囲や運用事例を明示する方針だ。

 医療機関側に個人情報を匿名化する義務を負わせず、製薬企業などは個人が識別できる診療データを活用できる方向で検討を進めているようだ。製薬企業や医療機器メーカーが複数の医療機関から提供を受けた診療データを合成すれば、個人ごとの診療履歴を作成できる可能性がある。こうして作成した、より精緻な診療データを、製薬や医療機器開発に活用する道を開く。

 医療分野以外でも本人同意が不要な例外を明確にする。例えば学術研究を目的とした、学術機関と企業との共同研究だ。

 現行の個人情報保護法は、公益性が高い学術研究を目的とした個人情報の利用には本人同意を不要にする例外を認めている。今回のガイドラインは、企業との共同研究でも例外規定が利用できる明確な基準を設ける。