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 米国の安全規格であるUL規格で長年、不正を続けていた京セラと東洋紡。両社の「隠蔽体質」が招いた結果だが、東洋紡はさらに自浄作用の働きにくい状態にあると言わざるを得ない。担当事業部内で不正を是正する機会は何度もあったにもかかわらず、いずれも蓋をしてしまったからだ。こうして、同社はUL規格への不適合品(以下、不適合材料)を量産し、顧客に販売し続けていた。

UL認証を取り消された東洋紡のプラスチックで造られた部品
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UL認証を取り消された東洋紡のプラスチックで造られた部品
②バイロペット、③グラマイド、④ペルプレンで成形した。軽量化ニーズを捉えて自動車部品を中心に採用を増やしてきた。(出所:日経クロステック)

* UL規格 米国の第三者安全科学機関であるUnderwriters Laboratories(UL)が策定する製品の安全規格。

 不適合材料はプラスチック。対象は幅広く、汎用エンプラからスーパーエンプラ、ゴム(エラストマー)にまで及ぶ。以下の通りだ。
[1]汎用エンプラ〔ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンナフタレート(PBN)〕
[2]スーパーエンプラ〔ポリフェニレンスルフィド(ポリフェニレンサルファイド:PPS)〕
[3]エラストマー〔ポリエステル系エラストマー(TPC)〕

 UL規格の認証を取り消された製品で言えば、①「プラナック」(PBT)、②「バイロペット」〔ポリエステル(PEs)、具体的にはPETとPBT、PBN〕、③「グラマイド」(PA)、④「ペルプレン」(TPC)、⑤「バイロアミド」〔PA(バイオマス原料)〕、⑥「PPS樹脂」(PPS)、⑦「グリラックス」(TPC)の7つである。

UL認証を取り消された製品と用途
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UL認証を取り消された製品と用途
汎用エンプラからスーパーエンプラ、エラストマーまで幅広い製品で不適合が見つかった。用途は圧倒的に自動車部品が多い。(出所:日経クロステック)

 ただし、これらは2021年3月26日時点までの結果だ。現在、同社では弁護士や社外取締役などの第三者から成る「プラナック事案対応委員会」による調査が進んでおり、その結果次第でさらに不適合材料が増える可能性がある。現に、当初発覚した不適合材料はプラナックの1製品だけだったが、この調査で7製品にまで拡大している。

 不適合材料の用途を調べると、自動車部品が圧倒的に多い。低燃費を実現するために、金属製部品をプラスチックに置き換えて軽くするのは自動車設計の定番だ。自動車業界のこのニーズをくんだ材料開発に東洋紡は力を入れ、自動車メーカーや自動車部品メーカーから高い信頼を得てきた。その裏で、不正であることを認識していながら、販売を止めることもUL規格を満たすように改善することもできなかった。

 UL規格への不適合の中身も、1つではない。

4つの不適合内容

 現時点(2021年4月5日執筆時点)で分かっている東洋紡の不適合の内容は4つ。[1]偽のサンプルでの受験、[2]非登録組成品の販売、[3]性能未達品の販売、[4]無許可工場での製造、である。

 [1]の偽のサンプルでの受験は、京セラと同じく、いわゆる「替え玉受験」だ。監査のためにULが不定期に行う確認試験の際に、東洋紡は量産しているプラスチックとは組成の異なる“優秀”なサンプルを作製してULに提出。不正に確認試験を通過した。

 [2]の非登録組成品の販売は、UL認証を取得する際に登録した組成とは異なる組成のプラスチックを製造し、顧客に販売したこと。[3]の性能未達品の販売は、UL認証を取得している製品と同じ要求性能を満たしていないプラスチックを製造し、顧客に販売したことだ。

 そして、[4]の無許可工場での製造は、その言葉の通り、UL認証を取得しているプラスチックを製造する許可を受けていない、もしくは登録されていない工場でプラスチックを製造したことである。

各製品の不適合の内容
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各製品の不適合の内容
7つの不適合材料に対し、4つの不適合内容が見つかった。製品ごとに該当する不適合内容が異なるが、際立つのはバイロペットとグラマイド。全ての不適合内容に該当している。(出所:日経クロステック)

 製品によって該当する不適合は異なる。中でも目立つのは、②バイロペットと③グラマイドだ。[1]~[4]の不適合内容の全てに該当しているからである。これではUL規格を順守するつもりは皆無だったとみられても仕方がないだろう。

 東洋紡の不正の経緯は次の通りだ。4度も隠蔽を繰り返している点が悪質だと言える。