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 人工光合成の仕組みの応用でジェット燃料の実用化を目指す──。東芝が、二酸化炭素(CO2)を燃料や化学品などの低炭素な化学原料に変換するCO2資源化技術の開発に力を入れている(図1)。邪魔者である温暖化ガスを有用な化学原料に換える大胆な挑戦で、同社はこの技術を「Power to Chemicals」と呼ぶ。

図1 東芝が進める「Power to Chemicals」
図1 東芝が進める「Power to Chemicals」
再生可能エネルギーを利用してCO2をCOに変換。そのCOを利用して低炭素な化学原料を生み出し、さらに化成品を造っていく。(出所:東芝)
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 光合成の暗反応に相当する技術を利用する*1。CO2を変換して生産する原料は一酸化炭素(CO)だ。COを水素(H2)と混合して「合成ガス」にすれば、触媒反応などによってメタノールやジェット燃料といったさまざまな製品を製造できる(図2)。

*1 光合成は光が反応過程に関係する「明反応」と、直接的に関係しない「暗反応」に分けられる。ここではCO2の還元過程を指して「暗反応に相当する」と表現している。

図2 COを利用して生まれる製品
図2 COを利用して生まれる製品
COと水素(H2)を合わせた「合成ガス」からさまざまな製品が生まれる。その1つにジェット燃料がある。(出所:東芝)
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 遠い先の話ではない。「2025年をめどに、CO2資源化技術の実用化を目指す」と、東芝研究開発センターナノ材料・フロンティア研究所トランスデューサ技術ラボラトリー室長の水口浩司氏は力を込める。

 まず同社が狙う製品がジェット燃料である*2。「足元では新型コロナウイルスの感染拡大で航空機利用者の需要が低迷しているものの、2024年付近からそれ以降には需要が戻ってくると予想している。加えて、カーボンニュートラル時代を狙って低炭素な燃料の需要も生まれるはずだ。そこで、2025年をCO2資源化技術の実用化時期に定めた」(水口氏)。

*2 東芝、東芝エネルギーシステムズ、全日本空輸、東洋エンジニアリング、出光興産、日本CCS調査が2020年12月に排出ガスなどのCO2をジェット燃料に利用していくため、課題の抽出やビジネスモデルの検討などを共同で進めていくと発表している。

CO2の処理速度を世界最高に

 ジェット燃料などでの低炭素な原料の需要に応えるために、東芝はCO2資源化技術の性能を高めている(図3)。2021年3月22日、CO2の処理速度が世界最高に到達したと同社は発表した。CO2をCOに変換する装置内部の電解セルを大型化するとともに、セルの積層化で実現した。

図3 CO<sub>2</sub>資源化技術の開発品
図3 CO2資源化技術の開発品
大きさが幅23×奥行き13×高さ23cmで、電解セルの面積が100cm2。(写真:東芝)
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 具体的には、1枚当たりの電解セルの面積を従来技術(2015年)の1cm2から100~400cm2に広げつつ、セルの数を1セルから10~200セル(スタック)に増やして稼働できるように改良した。新たに開発した製品(以下、開発品)はサイズが幅23×奥行き13×高さ23cm、電解セルの面積が100cm2、4セルである。開発品は床面積当たりで年間約35t(トン)/m2のCO2を処理できる。2019年に比べて処理速度は約60倍になった。

 開発における課題は、セル温度だった(図4)。セルを大型化・積層化するとセル温度が上昇し、セル内で水素が生成してしまう。これにより、CO2をCOに変換する効率が低下してしまうのだ。

図4 熱によるファラデー効率の低下
図4 熱によるファラデー効率の低下
熱によって水素の生成が始まり、COの生成が妨げられる。そこで流路を設け、ファラデー効率の低下を防いでいる。(出所:東芝)
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 そこでセルに冷却流路を設け、冷却効率を高める工夫を施した。冷却流路によってセル温度はセ氏25度までに抑えられ、ファラデー効率を94%に高めることができた。冷却流路がないとセル温度がセ氏50度まで上昇し、COのファラデー効率*3は81%にとどまっていた。

*3 ファラデー効率 全電流のうち主生成物に寄与した電流の割合のこと。記事内の開発品においてはCOの生成にどの程度寄与したかが示され、数値・効率が下がった分だけ水素の生成に電流が消費されている可能性がある。