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 「東証1部復帰で東芝再生ミッションが全て完了し、現在かなり達成感を感じている。3年の激務から離れて心身共に充電したい」。東芝の代表執行役社長CEO(最高経営責任者、以下社長)を突然辞任した車谷暢昭氏のコメントが、2021年4月14日に同社が開いた緊急会見で披露された。同社指名委員会委員長の永山治氏は「本人から辞任の申し出があり、受理した」と辞任の経緯を語った。

 あくまでも本人の意思による辞任と、東芝は穏便に済ませたいようだ。だが、車谷氏本人が不在だったこの会見の公式コメントを、額面通りに受け取る人間は同社内には少ない。「もちろん、車谷氏は社長を辞めたくなかった」と、内情に詳しい同社社員は言う。ではなぜ、車谷氏は東芝の社長を辞めさせられたのか。

東芝の社長を辞任した車谷氏
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東芝の社長を辞任した車谷氏
(撮影:加藤 康)

 車谷氏は、2015年の不正会計と2016年の原子力事業による巨額損失の2つで大きくつまずいた東芝に2018年に経営者として乗り込み、業績を立て直した。冒頭のコメントの通り、2021年1月には3年半ぶりに東証2部から1部へ東芝を復帰させた。これが同氏の最大の功績だ。

* まず2018年 4月に代表執行役会長CEOを務め、同年6月に取締役代表執行役会長CEOに就任。その後の2020年4月から代表執行役社長CEOを務めていた。

社員との不協和音

 ところが、車谷氏の評価は社内で2分する。立て直した業績の数字から優秀な社長と見る社員がいる一方で、「東芝のことをろくに知らない外部から来た元バンカー(銀行家)と偏見を持つ社員もいる」(同社員)というのだ。

指名委員会委員長の永山氏
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指名委員会委員長の永山氏
会見で社長交代について説明した。(写真:日経クロステック)

 経営不振に陥った企業を立て直して成長させるには、2つのフェーズを乗り越える必要がある。第1は、リストラのフェーズだ。歴史の長い企業には「しがらみ」がある。東芝も例外ではなかった。社外から来てしがらみとは無縁だった車谷氏は、ここで容赦なくリストラを断行した。そして中期経営計画の通り、きちんとミッションを果たした。

 だが、大きくつまずいたとはいえ、東芝の“病状”はそれほど深刻ではなかったという。もとより、東芝の社員は粒ぞろい。「外部から経営者を招へいしなくても、自分たちで十分に経営を立て直せる」と自信を持つ社員は多かった。にもかかわらず、東芝再建は自分だけの手腕かのように吹聴する車谷氏のことを、面白くないと思う人間は東芝社内には少なくなかったという。

 車谷氏に対する社員の評価がより厳しくなったのは、一連のリストラが終わり、第2のフェーズ、すなわち成長軌道に向かう現在のフェーズに入ってからだ。リストラによって赤字体質から脱却し、利益を伸ばす成長段階では、複数の分野でしっかりとした事業の柱を立てて、それぞれで利益を高めていく経営手腕が必要となる。ここでは「技術やものづくりの知見やノウハウが大きく物を言う。そこが弱い車谷氏の今後の手腕を疑問視する社員は多い」(同社員)。

 社員との不協和音が決定的になったのは、ここ1年のことだ。後述する、「物言う株主」とも呼ばれるアクティビストからの強い要請の影響もあり、車谷氏は主に事業部長や子会社の社長クラスに、業績向上を求めて過大なプレッシャーを加えたという。予算が絞られる中で高い業績を要求された事業部長や子会社社長からは、不満の声が上がっていた。現に、同社の指名委員会が社内で実施した車谷氏への信任調査で、過半数が「不信任」と回答している。