対象者の設定や人事評価、労働時間管理などについて適正かつ柔軟に対応していく――。厚生労働省が2021年3月に改定したテレワークのガイドラインの内容を踏まえると、テレワークを進める企業にはこうしたスタンスが必要になりそうだ。
厚労省が2021年3月に改定したのは「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」だ。企業などがテレワークを進める際の、人事・労務管理面におけるポイントがまとめられている。
同省はこれまで、テレワークのガイドラインとして「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」を提供してきた。東京オリンピック・パラリンピック競技大会で見込まれる交通混雑緩和などを見据えたものだ。働き方改革の一環として政府がテレワークの普及を進めていた2018年2月に策定した。今回の改定はテレワークガイドラインとしては3年ぶりとなる。
テレワークの普及を機に見直し
厚労省が改定に踏み切った背景には新型コロナウイルス対策として在宅勤務を中心としたテレワークが普及していることがある。総務省テレワークマネージャーとして普及に携わるなどテレワークの動向に詳しいパソナ リンクワークスタイル推進統括の湯田健一郎氏は「2018年ごろは社員1人がテレワークを実施する頻度は月2回未満だったが、今では多くの企業が週2回といった頻度を目指したり、勤務形態を出社勤務からテレワークへ完全に移行したりしている」と話す。
パソナの湯田氏は「働き手のテレワークを継続したいという意向が働き手の中で強まっていたり、企業もテレワークを続けていく方向を打ち出したりしている。こうした背景を踏まえて、実施頻度などが全く変わってきたこともあり、テレワークガイドラインが改定された」と説明する。
改定されたガイドラインの内容を見ると、テレワークにおける「対象者」「人事評価」「安全衛生」といった取り組み分野について企業に適正な対応を求めていると分かる。
取り組み分野 | 概要や趣旨 |
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対象者 | 正規・非正規といった待遇差を問わずテレワークができるようにしていく。雇用形態の違いだけを理由に対象者から除外することがないよう注意する |
人事評価 | テレワークに取り組む社員が、出社勤務をしている社員と同じく適正な人事評価を受けられるようにする |
安全衛生 | テレワークをする社員に向けて安全衛生管理体制の整備などを進めていく。社員の在宅勤務の環境についても状況を報告してもらい必要に応じて改善する |
対象業務 | 対象業務は管理職側の意識を変えるなどして広げていく。テレワークに向かないと安易に結論づけないようにする |
労働時間管理 | 「客観的な記録による把握」と並んで、テレワークをする社員からの「自己申告による把握」もある。中抜け時間については「把握する」「把握せずに始業と終業の時刻だけを把握する」のどちらでもよい |
費用負担 | テレワークをする社員に過度の負担がかからないように注意する。企業と社員がどう負担していくのかを十分に話し合ってルールを決める |
雇用形態の違いだけでテレワークの可否を決めてはいけない
テレワークの対象者について、ガイドラインでは、正規や非正規といった雇用形態の違いだけを理由に「テレワーク対象者から除外することのないよう留意する必要がある」としている。背景には、正社員と、パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者といった非正規社員との間で、あらゆる待遇面で不合理な差を設けてはならないとする労働関連法がある。
企業のテレワークに詳しい特定社会保険労務士の杉本一裕SRO労働法務コンサルティング代表によると、非正規社員はテレワークができないといったケースは多いという。オフィスワークでもテレワークに必要なノートパソコンの配布ができないなどの理由があるという。
しかし、こうした課題が解消できる場合や、課題がない場合は「差別なくテレワークができるようにすることが望ましい」とSROの杉本代表は指摘する。特にコロナ禍で急きょテレワークを始めた企業や、テレワークに関する社内規定が整っていない企業は対象者や対象業務について設定したり、見直したりするとよいという。
SROの杉本代表は「テレワークの対象業務や対象者が明確になっていないとテレワーク導入後に差別だと言われかねない状況が起こり得る」とみる。テレワークの対象者から外す必要がある場合は、「自律的に仕事を進めるのが難しい新入社員」「社員が担当している業務は単独で仕事を進めることができない場合」など、企業として条件を明確にしておく必要があるという。