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 東芝エネルギーシステムズが、水素(H2)を多用途で使う「水素社会」を目指して攻勢をかけている。水の電気分解で水素を得る水電解では、既存技術比で3割の高効率化を達成。大型化や低コスト化の技術課題を解決し、2020年代後半の実用化を狙う。水素インフラの世界市場は50年に160兆円規模まで達するとの試算があり、「カーボンニュートラル(温暖化ガス排出量の実質ゼロ)」の潮流が市場拡大を後押しする。同社はこの好機をつかもうとしている。

 同社は東芝のエネルギー事業子会社であり、水素の製造・供給・利用の全領域で技術開発を進めている。起点となる水素製造では、次世代の水電解技術として固体酸化物型水電解(SOEC)の開発に力を注ぐ(図1)。

図1 東芝エネルギーシステムズが開発中の固体酸化物型水電解(SOEC)技術
図1 東芝エネルギーシステムズが開発中の固体酸化物型水電解(SOEC)技術
(a)SOECセルおよびスタックの構造と水電解の仕組み、(b)電解質と水素極、酸素極で構成するSOECセルの試作品。(出所:東芝エネルギーシステムズ)
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 同社のSOECは、電解質や水素極の材料・構造に特徴がある。ジルコニア製電解質の両面を、ニッケル・ジルコニアもしくはニッケル・セリアから成る水素極と、ランタン・ストロンチウム酸化物から成る酸素極とで挟み、厚さ数百μmのセルを構成する。

 続いて、このセルの両面をさらに「耐久性を向上した特殊な金属」(同社)製セパレーターで挟み込む。こうしてできた単位セル(セル+セパレーター)を積み重ねてセルスタック(SOECセルスタック)に組み上げる。

 セルスタックは、700度と高温の電気炉内に組み込むことで水電解の反応を促す。セルに取り込んだ水蒸気を基に水素極で水素を製造。その際に生じた酸化物イオンは電解質中を通り、酸素極から酸素(O2)として放出する仕組みだ。金属製のセパレーターには、水蒸気と酸素を通しやすくする溝加工を施している。

熱供給でさらに効率向上も

 東芝エネルギーシステムズの試算では、現在主流の固体高分子型水電解(PEM)やアルカリ型水電解に比べ、SOECは水電解の効率が約3割優れるという。同社水素エネルギー技師長の佐藤純一氏は「電気と熱の併用で反応に必要なエネルギーを小さく抑えられる」と高効率にできる理由を説明する。

 水素を1Nm3*つくるのに必要な電力量で各技術を比較すると、PEMやアルカリ型水電解は6k~6.5kWhであるのに対し、SOECは4kWhと省電力で済む。さらに、装置の外部から熱を追加で供給できれば、電力量を3.6kWh程度まで減らせる可能性がある。

* Nm3とは、標準状態(0度、1気圧)換算のガス量のこと。「ノルマル立方メートル」と読む。

 20年代後半の実用化に向けた技術的な課題は、大型化と低コスト化だ。大型化では、単位セルをより多く積層したSOECスタックを造り、それらを並列に複数組み合わせることで規模が大きなSOECシステムを構築していく。実用的な水準を考えると「発電出力で10MW級、さらに50MW級も必要になる」(佐藤氏)という。

 同社が開発した試作セルの1つを見ると、その発電出力は2kWほど。実用化には多積層化と並列化を成し遂げる技術開発が急務になるが、これらは決して単純なものではない。例えば、セルを多積層にすると積層間の電気抵抗が大きくなりやすく、狙った反応効率を達成しにくい。セルの組み合わせ方を工夫して電気抵抗を下げなくてはならない。

 加えて、大型化には材料面での課題もある。SOECの電解質に使うジルコニア、すなわちセラミックスは、表面積を大きくするとひずみが発生して割れやすくなる。そのため、同社は無理に単位セルの寸法を大きくするのではなく、性能や品質を長期間維持できる電解質の大きさを決めた上で、複数を組み合わせてSOECシステムを大型にする道を選んだ。

 さらに、SOECは定置での長期間稼働を前提としているため、大型化しつつ耐久性も高めなくてはならない。水蒸気をはじめ、水素や酸素は腐食性が高く、セル内部の材料や金属製セパレーターの劣化を早めやすい。

 課題解決に向けて同社は、水素極、および酸素極/電解質界面構造の改良を進める。1000時間当たりの劣化率は20年には0.6%だったが、21年中に同0.3%未満まで抑えたい考えである。将来的には同0.15%以下を目指していく。

装置価格は5万円/kWhへ

 実用化に向けたもう1つの課題である低コスト化では、同社は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の指針を参考に、発電量1kWh当たり5万円を水電解装置の目指すべき価格水準に設定している。