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 東芝が開発を進めているペロブスカイト太陽電池が、“夢”の次世代太陽電池として世界の注目を集めている。フィルム型で軽量である上に折り曲げることができ、しかも変換効率が高い。これらの特徴を生かし、一般に普及している結晶シリコン太陽電池からの置き換えを狙う。

ペロブスカイト太陽電池
ペロブスカイト太陽電池
軽量で折り曲げられるので、ビルの壁や耐震性の低い工場の屋上などにも設置できる。空き地の少ない都市部にメガソーラーを構築できる可能性を秘める。(出所:東芝)
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 従来の結晶シリコン太陽電池を設置できなかった、ビルの壁や曲面を描く屋根などにも設置できる。結晶シリコン太陽電池並みの変換効率を実現すれば、「空き地の少ない都市部にもメガソーラーを構築して原子力発電所10基以上と同等の電力を発電できる。つまり、主力電源として使える可能性がある」(東芝研究開発センターナノ材料・フロンティア研究所トランスデューサ技術ラボラトリの都鳥顕司氏)。

 実用化目標は2025年。カーボンニュートラル市場拡大の波にうまく乗れば、イノベーション(技術革新)を起こす可能性を秘めると期待する。

曲面に設置できるペロブスカイト太陽電池

 結晶シリコン太陽電池は、シリコンが光を吸収して発電する。ペロブスカイト太陽電池はシリコンの代わりに低温塗布で作製できるペロブスカイトと呼ばれる結晶構造*1の材料を用いて発電する。このペロブスカイト結晶の発電層膜は薄くても変換効率が高い特徴を持つ。

*1 ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造 酸化物の灰チタン石(ペロブスカイト)と同じ結晶構造。結晶シリコンと同程度の高い電荷輸送能力を持つ。低温塗布で発電膜を作製しても不純物が残ったり結晶性が悪くなったりせず、欠陥が少ないので発電効率が高い。

 結晶シリコン太陽電池のセルは、シリコンのインゴットを切り出したウエハーで製造する。これに対し、ペロブスカイト結晶のセルは原料となる溶液を基板上に塗布して製造する。ここで東芝はヨウ化鉛メチルアンモニウム(CH3NH3PbI3)を採用。原料の溶液を乾燥させる際の加熱温度は100℃程度と低い。作製時に1500℃以上の高温となる結晶シリコン太陽電池と違い、プラスチックフィルム基板が使える。そのため、薄くて折り曲げられるセル・モジュールを製造できる。

ペロブスカイト太陽電池の構造
ペロブスカイト太陽電池の構造
シリコンの代わりにヨウ化鉛メチルアンモニウム を原料とするペロブスカイト結晶を活性層に利用。(出所:東芝)
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 折り曲げ可能とは、すなわち割れにくいというのと同義だ。つまり、ひょうやあられが降ったり、強風で飛ばされた飛来物が衝突したりしても割れない。表面に強化ガラスなどの保護材を貼って飛散を防ぐ必要がない。これも結晶シリコン太陽電池より軽量で安価に設置できる理由の1つだ。

 結晶シリコン太陽電池と競合できる変換効率の高さもポイントだ。現在は開発中のペロブスカイト太陽電池のシングルセル公認変換効率*2は21.6%(1.0cm2)。26.7%の結晶シリコン太陽電池にはまだ及ばないものの、「大面積で高効率な結晶シリコンのプレミアムバージョン並みの変換効率を目指す」(都鳥氏)と鼻息が荒い。

ペロブスカイト太陽電池と結晶シリコン太陽電池の比較
ペロブスカイト太陽電池と結晶シリコン太陽電池の比較
(東芝の資料を基に日経クロステックが編集)
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*2 公認変換効率 公認されている機関で測定し、面積が1cm2 以上の太陽電池の変換効率。

 ペロブスカイトは結晶化するまでの時間が非常に短い。そのため、均一な膜形成が難しく、大面積では変換効率が低下する課題があった。しかし、製造方法の工夫で東芝は18年8月、面積703cm2のフィルム型モジュールで11.7%という認証変換効率*3を達成した。大面積のフィルム型モジュールとしては、全世界でトップの数値という(21年4月時点)。同社は面積900cm2で15.0%を目標に技術開発を進めている。

*3 東芝社内での測定では14.1%を達成している。