ホンダがエンジンを捨てる──。「エンジンのホンダ」の異名を持つ同社が衝撃的な宣言を行った。2040年以降に世界で販売する新車を、全て電気自動車(EV)もしくは燃料電池車(FCV)にシフトするというのだ。エンジン車はもちろん、エンジンを搭載するハイブリッド車(HEV)の選択肢も消えるというわけだ。
なぜ、ホンダはエンジンを捨てるのか。同社の自動車事業(以下、4輪車事業)の業績を見ると、苦しい“台所事情”故のリストラの線が浮かび上がってくる。
もうからない4輪車事業
ホンダの4輪車事業はここ10年ほど低収益にあえいでいる。東日本大震災の影響で2011年度は営業赤字に転落し、翌年には黒字に転換したものの、営業利益率の最高値は2016年度の4.9%にとどまる。その後の3年は3.4%、1.9%、1.5%と右肩下がりで下降し、2020年度第3四半期まで(2020年4~12月)の営業利益率は0.8%と、ついに1%を割った。10%を優に超える2輪車事業とは対照的な状態となっている。
「自動車メーカーが十分な利益を出しつつ成長につながる健全な開発を行うためには、8%程度の営業利益が必要」と愛知工業大学工学部客員教授の藤村俊夫氏は指摘する。ホンダの4輪車事業の営業利益率は、トヨタ自動車(8.2%、2019年度)はもとより、軽自動車を主体とするスズキ(6.2%、同年度)にも遠く及ばない。
2015年6月に就任した八郷隆弘社長は、「リストラ社長」と言っても過言ではないほど大胆な構造改革に奔走した。主立ったものを列挙すると、タイのアユタヤ工場で4輪の完成車を組み立てる第1ラインを休止、4輪の完成車工場(以下、4輪車工場)である狭山工場(埼玉県狭山市)の閉鎖を決断(2021年度までに閉鎖)、英国とトルコの4輪車工場の閉鎖を決定(閉鎖は2021年)、フィリピンからの4輪車生産の撤退、グローバルモデルの派生車を1/3に削減(2025年までに実施)、系列の部品メーカー3社を日立Astemo(アステモ、東京・千代田)として再編、といった具合だ。
中でも、世間を驚かせたのは2020年4月に断行した本田技術研究所の「解体」である。研究開発子会社として「聖域」とも言われた本田技術研究所から、4輪車の開発部門のほとんどの機能をホンダ本体に吸収した。この本田技術研究所のリストラについては、同社役員OBからも「八郷氏はよく決断したと思う」という声が上がるほど、ホンダにとって本田技術研究所に手を入れるのはタブー視されてきた。
だが、こうした苦しい決断をホンダのトップが余儀なくされたのも、全ては長く続いた4輪車事業の業績の低迷が原因だ。