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 AGCは5G(第5世代移動通信システム)の電波を屋外から屋内に取り込みやすくする技術を開発した。実は日本の窓の多くは5Gの電波を大幅に減衰させる。断熱性や遮熱性を高めるために窓ガラスにコーティングした金属膜が電波を跳ね返すためだ。金属膜に後から微細加工を施し、5Gの電波だけが通り抜けるようにした。電波の強度を高める製品や、狙った方向に電波を反射させる製品と組み合わせ、工場などでの5Gの実用化を後押しする。

AGCは窓ガラスが5Gの電波を遮らないようにする加工技術を開発した
AGCは窓ガラスが5Gの電波を遮らないようにする加工技術を開発した
(出所:AGC)

 窓は建物の中でも熱の出入りが多い。冷暖房の効率を高め、家の中を快適にする窓ガラスが「Low-E(低放射)ガラス」だ。ガラスに酸化亜鉛や銀をコーティングして断熱・遮熱性を高めている。板硝子協会によると、省エネ対策で普及が進み2019年時点でLow-Eガラスを採用する日本の新築一戸建ては約8割にまで増えている。06年時点では3割弱にとどまっていた。

 この金属の膜が5Gにとって思わぬ障害となっている。金属は電波を反射する代表的な材料だ。加えてミリ波帯など高周波を使った5Gは特に障害物に弱く、電波が隅々まで浸透しにくい。AGCの実験では、Low-Eガラスを通過したミリ波帯を使う5Gの電波強度は何も加工を施していないガラスを通る場合のおよそ1万分の1に落ちてしまった。これでは屋外で発せられた5Gを屋内で活用するのは難しい。従来の4Gは5Gと比べて電波が透過しやすく、Low-Eガラスを通る場合でもあまり問題は発生しなかった。

 そこでAGCはLow-Eガラスが持つ断熱・遮熱性能を保ちつつ、「FSS(Frequency Selective Surface)」という技術を活用した5Gの電波を遮らない試作品を開発した。窓にしま模様を描くように、レーザーで金属膜を剥がす。しまの幅はマイクロメートル単位だ。5Gが使う波長が通りやすいように計算された特定の幅になっている。

 金属膜に細長い切り抜きが入ると、その形状の特性から金属膜がアンテナの機能を持つ注1)。5Gの電波は電力として一度、金属膜に蓄積されたのちに電波として再放射される。金属膜はほとんど透明なので一部が削れても見た目には響かない。同社は設置済みのLow-Eガラスを後から加工しやすいように持ち運びできるレーザー機器を開発中だ。

注1)金属板などに細長い切れ込み(スロット)を設けた無線通信用の平面アンテナ「スロットアンテナ」の考え方を応用している。スロット部に誘導された電流が電波として再放射される仕組み。電波がスロットの穴を通り抜けるのではない。
FSS技術を使うと5Gの電波強度を維持できる
FSS技術を使うと5Gの電波強度を維持できる
普通のLow-Eガラスを通過した5Gの電波強度(Model2)は無加工のガラスを通過した場合(Model1)と比べて約1万分の1に減衰する。FSS技術で金属膜を剥がしたガラスを通った電波(Model3)はModel1と同等の強度を保っている。(出所:AGC)