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 パートナーであるNTT西日本から契約の一部を更新しないとの通知を受け、総売上高の約4割に当たる17億6300万円の売り上げが2022年3月期に減少するとの見込みを発表したAI inside。2021年5月12日の決算発表で継続的な成長を主張したものの、株価の下落が止まらない。問題の本質はどこにあり、どんな成長の手を打っていくのか。同社の渡久地択代表取締役社長CEO(最高経営責任者)を単独取材した。(聞き手は島津 翔=日経クロステック)

NTT西日本が販売していたAI insideのOEM(相手先ブランドによる生産)商品で、顧客が次々に解約する事態が明らかになりました。問題の本質はどこにありましたか。

 NTT西日本とのパートナー契約を結んだ当初、我々もNTT西日本も、これだけのライセンス数(編集部注:2021年3月末時点で9284件)が獲得できるとは全く思っていませんでした。NTT西日本からは、そこまで人的リソースを割く予定がなかったと聞いています。

 OEMという契約の性質上、我々が勝手に営業活動に加わるわけにはいきません。我々は(NTT西日本が獲得した)エンドユーザーへのサポートは提供していませんでした。互いに信頼してこれまでやってきた。ただ事実として、両社の想定以上に契約数が取れてしまった。そこで、顧客に対するサポートが間に合わなかった。

 一部の営業に同行するなどの手を打ち始めたのはごく最近のことです。

渡久地択氏
渡久地択氏
AI inside代表取締役社長CEO(最高経営責任者)。2004年よりAI(人工知能)の研究開発を始める。以来、継続的なAIの研究開発を行い、多数の技術特許を発明。研究開発と同時にビジネス化や資金力を強化し、2015年創業。2019年東証マザーズ上場。AI insideのサービス開発と技術・経営戦略を指揮する(写真:吉成 大輔)
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NTT西日本は2020年1月から無料キャンペーンを実施し、結果としてその施策で大量の契約を取りました。違約金も免除するキャンペーンなので、無料期間中に多くの顧客が解約するという予想は事前にできたのでは。

 我々がその事実を把握できなかったのには理由があります。NTT西日本以外の契約では、解約率が非常に低かったことです。

 我々も直販で、キャンペーン施策を採用しています。有償のプログラムですが、1カ月お試しで使っていただき、そのトライアル期間に我々のカスタマーサクセスのチームが顧客とコミュニケーションを取って、OCR(光学的文字認識)の設定や顧客のワークフローの見直しなどに取り組みます。

 初めて申し上げますが、我々のキャンペーンでは約9割の顧客が本契約に移行します。今ほどのノウハウがなかった数年前ですら、7割程度は継続していました。他のパートナーについても正直にお伝えすると、継続が7割程度です。

 こうした事情から、我々にとって、NTT西日本だけ解約が多く出るという予想は難しかった。

NTT西日本のキャンペーンが有償のトライアルではなく無料だったからでは?

 いや、我々も数年前まで無料でトライアルを実施していたのですが、そこまで高い解約率ではありませんでした。

つまり、NTT西日本のカスタマーサクセスに問題があったと。

 それは私の口からは申し上げにくい質問です。ただ、両社で検討して、今後はオンボーディング(サービスに新たに加入した人を支援し定着を促す施策)やサポートノウハウの提供に取り組むこととしました。

解約が多く出ている事実に渡久地社長が気付いたのはいつですか?

 こういう事態(編集部注:高い割合で解約者が出ていること)に気付き、課題が見えてきたのは2021年4月に入ってからです。

それまでは、解約数の数字はAI inside側からは見えていなかった?

 はい、当社からNTT西日本とエンドユーザーとの間での解約は見えていませんでした。

渡久地社長は2021年2月に自社株を売却しています。NTT西日本との大口契約が不更新となる前に株を売ろうとした場合、インサイダー取引に当たるのではという声が出ています。

 全く事実と異なります。2月の時点では全く知り得なかったことです。多くの解約が出てきたので今後のサポートを両社で検討し始めたのは4月ですし、NTT西日本からライセンスを不更新にするという通知があったのは、我々が適時開示を出した4月28日当日のことです。