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 2021年5月19日午前、東京都内の一部で発生したNTT東日本の固定電話の通信障害は、運営上の人為的ミスが原因だった。新型コロナウイルスのワクチン接種予約を巡って、自治体に殺到する電話を通話制限する中、東京都内の64万件に影響する”裏番号”と呼ばれる番号を誤って入力してしまったことで発生した。同社は運営方法を見直し、再発防止につなげるという。

 「申し訳ない限りだが、本来、03-XXXX-XXXXという番号を入力するべきところ、その番号が変換されている03-YYYY-YYYYという、私共が裏番号と呼んでいる番号を投入してしまった。多くのお客さまにご迷惑をおかけしたことをおわび申し上げたい」――。

 同日午後、通信障害の経緯について説明したNTT東日本 取締役 ネットワーク事業推進本部 サービス運営部長の池田敬氏はこのように謝罪した。

 19日午前中に起きた固定電話の通信障害は、03番号で始まる東京都内の一部の固定電話番号、約64万件に向けて発信する通話が、同日8時10分から10時50分にかけてつながりにくくなった。対象の電話番号に発信した場合、「ただいま電話が混み合っています」という自動音声ガイダンス(トーキー)が流れて、通話できないケースが多くなった。

19日午前に発生した通信障害の原因。誤って「ひかり電話サーバ」の番号を通話制御対象としてシステムにセットしてしまった
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19日午前に発生した通信障害の原因。誤って「ひかり電話サーバ」の番号を通話制御対象としてシステムにセットしてしまった
(出所:NTT東日本)

 本来であれば、この日、ワクチン接種予約が始まる自治体のコールセンターの番号に対し、電話が殺到するのを防ぐため、通話制御をかけるはずだった。しかし入力ミスによって、東京都内の03番号エリアの2割強にあたる、約64万件の電話番号に対して、通話制御がかかってしまった。同社が裏番号と呼ぶ、多くの利用者にひも付けられた番号を誤って通話制御システムに入力したことが原因だ。

 なぜこのようなトラブルが発生したのか。その詳細を理解するためには、まずは同社のネットワークの仕組みを知る必要がある。

リダイレクション用のサーバー番号を誤って指定

 NTT東の固定電話は大きくわけて、メタル回線を使った「固定電話(加入電話、INSネット)」と、光ファイバー回線を使った「ひかり電話」がある。今回の通信障害の対象となった約64万件の電話番号は、東京都内の03番号エリアで固定電話を契約していた利用者が、同じ電話番号でひかり電話に移行したユーザーの番号だった。

“裏番号”は「ひかり電話」に同番移行した利用者に対してリダイレクションするための番号だった
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“裏番号”は「ひかり電話」に同番移行した利用者に対してリダイレクションするための番号だった
(出所:NTT東日本)

 このような、ひかり電話に同番移行した利用者に電話をかける際、NTT東の交換機は一度、「ひかり電話サーバ」と呼ばれる、同番移行した契約者を収容するサーバーにリダイレクションする。このひかり電話サーバを経由して対象となる電話番号の利用者と電話をつなぐ。このひかり電話サーバにひも付けられた番号こそが、同社が裏番号と呼ぶ「03-YYYY-YYYY」だった。

 裏番号は、通常の10桁の電話番号のように見える。しかし実際はサーバーのアドレスのようなものだ。この裏番号を通話制御の対象としてしまうと、このサーバーに収容されたすべての利用者に対して影響が発生する。これが、約64万件の電話番号がつながりにくくなった障害の原因だった。

 ではなぜこのような人為的なミスが発生してしまったのか。